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39-7

「お、男の人に肌を見せるなんて恥ずかしいですっ」


 プリシラの顔は茹でたみたいに真っ赤になっている。

 前に水着を着たときはよかったのだろうか。あっちのほうがよっぽど肌を見せていたが……。


「どのあたりが痛いんだ?」

「足首です」

「足首か。わかった。すぐに治すからな」


 俺はプリシラの足に手をかざし、心の中で魔法を唱える。

 魔書『オーレオール』から流れ込んでくる魔力を操り、手に集中させる。

 集中した魔力は光に変わり、プリシラ身体をやさしく包み込んだ。

 十も数えぬ間に光が収まる。


「どうだ?」

「立ってみます」


 すっと立ち上がるプリシラ。

 今度はふらつかず、自分の足でしっかり立てた。


「ぜんぜん痛くありません!」

「よかった」

「ありがとうございます。アッシュさまっ」


 だが、プリシラのにこにこ顔はすぐに曇ってしまう。


「ご主人さまを手助けするのがメイドのお仕事なのに、わたしが助けられてしまうなんて……。メイド失格です……。はうう……」


 しょぼんとしている。


「プリシラはいつも俺を助けてくれてるんだ。今のはそのお返しと思ってくれ。どうだ?」


 俺がそう言うと、プリシラは自嘲気味な苦笑いを浮かべる。


「アッシュさまはお優しいですね」


 プリシラにそんな表情はさせたくない。

 だから俺はこう口にした。


「プリシラだから優しくなれるんだ」

「!?」


 プリシラの顔がまた真っ赤になる。

 それからうっとりとした表情になった。


「わ、わたしだから……。てへへ……」


 しあわせそうな笑みを浮かべているのを見て、俺は安心した。


 プリシラの手当てが済み、俺たちは破壊した機械人形に近寄った。

 横たわる機械人形。

 雷撃魔法の直撃を受けて、完全に壊れている。もう動きだしはしないだろう。


「どうしてこんなところに機械人形がいたんだろう」

「近くに古代人の遺跡があるのでしょうか」


 周囲を見渡す。

 荒野の只中の台地はただただ乾いており、草木さえない。


「アッシュさま! あれを見てください!」


 プリシラが空を指さす。

 暗い夜空。

 地平線すれすれに月が昇っていた。

 ただの月ではない。血に染まったかのような真っ赤な月だった。


「あ、あれが赤き月……」


 俺とプリシラは息をのむ。

 数百年に一度しか見られないという、赤き月。

 その赤は鮮血をほうふつとさせる色をしており、きれいというよりも恐怖を感じた。

 凶兆の赤。

 プリシラは怖がっていて、俺の服の裾をちょんとつまんでいる。


「赤き月の花、さがすか?」

「え、えっと……」


 赤き月は少しずつ夜空の頂点へと昇っていく。

 月明かりが地上までも赤く染めている。

 そのときだった――薄暗がりの向こうに群れをなす赤い光を見つけたのは。

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