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「アッシュ。おぬしは自分が鈍感ではないと思っているようじゃが、それはぜんぜん違うのじゃ。おぬしほど鈍感な人間はケルタスのどこをさがしてもおらんじゃろうな」
ひどい言われようだ……。
しかし、現に俺はプリシラが落ち込んでいる理由がわからずにいる。
だから反論ができなかった。
「屋敷の主人がプリシラを雇おうとしたとき、プリシラはおぬしにこう言ってほしかったのじゃよ。『プリシラは俺の嫁だー!』とな」
「そ、そこまでは思っていませんっ!」
プリシラはあわあわしながら否定してきた。
「今のは冗談じゃが、アッシュには『プリシラは貸せません』とはっきり言ってもらいたかったのじゃよ。のう、プリシラ」
「えっと……はい」
プリシラは俺から目をそらしながらうなずいた。
そうだったのか……。
俺はあのとき、彼女の新しい将来の可能性が見つかるのではないかと思い、判断を彼女にゆだねた。
しかし、それは間違いだったようだ。
「アッシュさまは、わたしがいなくなってもさみしくないのですか……?」
目の端に涙を浮かべながら尋ねてくる。
「そんなわけないだろ。プリシラにはずっとそばにいてほしいと思ってる」
正直な気持ちを彼女に告げる。
その思いが通じたらしく、プリシラの表情が少し明るくなった。
「わたしにとって、アッシュさまにお仕えすることこそ至上の喜びですっ」
「……ありがとう。それとさっきはすまなかった」
ここまで慕ってくれる人がいるだなんて、うれしいな。
でも、プリシラにはもっと広い世界を見てもらいたい。
俺のそばにいるだけでは、将来の可能性は広がらないから。
その思いは心の奥にしまっておくことにした。
馬車はケルタスへと到着した。
街に帰ってきた俺たち三人は冒険者ギルドへ赴き、今回の成果を報告した。
「ありがとう、プリシラちゃん。依頼主からの報告状でもプリシラちゃんの料理を褒めていたよ」
ギルド職員のオーギュストさんが上機嫌にそう言った。
それからオーギュストさんから報酬をもらった。
さすが貴族の依頼ということもあり、かなりの額だ。
「プリシラ。これはプリシラのものだ」
俺は全額それをプリシラに渡そうとした。
だが、彼女はそれを拒否した。
「依頼の報酬は全員のものだとお約束したじゃないですか」
プリシラがそう言ったので、いつもどおり、いくらかの額をそれぞれのおこづかいとして分配し、残りのお金は仕事などに使うものとしてプリシラが預かった。
「さて、あとは夜を待つだけじゃな」
スセリが意味深な目線をプリシラに送る。
プリシラは照れて下を向く。




