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問題が解決したのを見届けた俺とスセリは屋敷を出て、それから近くの村の宿で一泊した。
「それにしても、半獣があんなに嫌われているなんてな」
「プリシラの境遇がめぐまれておるだけじゃ。半獣は今もなお、迫害の対象となっており、奴隷として売られておる」
つまらなそうにあくびをするスセリ。
真剣に考えたところで、どうにかなるものでもないな。
半獣の境遇についていろいろと思いを巡らせようとしたが、それを中断して眠りにつこうとした。
……が、しかし。
「……なあ、スセリ。そろそろ寝ないか」
「うむ。そうするのじゃ」
俺は「自分の部屋に帰ってくれ」と暗に言ったつもりだったのだが、スセリは俺の言葉を誤解して――いや、わかったうえであえてそうしたのだろう、俺のベッドにもぐり込んだ。
端のほうに行き、一人分入れる隙間を空け、その部分をポンポンと叩く。
ここで寝ろ、という意味だろう。
「ほれ、寝ないのか?」
ベッドの前にたたずむ俺にそう言ってくる。
「ワシの添い寝では不満かの?」
「不満だ。自分の部屋で寝てくれ」
俺に冷たく言われてスセリは「やれやれ」と素直にベッドから出た。
「アッシュをからかうのにも飽きたし、寝るのじゃ」
「おやすみ」
「おやすみ、なのじゃ」
そういうわけで、俺とスセリはそれぞれ別の部屋で寝たのであった。
翌日。
プリシラを迎えに依頼主の屋敷へと赴いた。
「ランフォード家のアッシュだ。シェフの代理をしたメイドを迎えにきた」
今度は家の名を告げて門番に取り次いだ。
まもなくして俺とスセリは屋敷へと案内された。
そして応接室で、屋敷の主と面会した。
「依頼を受けた冒険者がランフォード家のぼっちゃんだったとは驚きましたよ。狭い屋敷ですが、どうぞくつろいでください」
「お言葉に甘えさせていただきます」
「のじゃ」
屋敷の主の態度は昨夜のプリシラに対するものとは正反対で、俺は内心呆れていた。
「プリシラの料理はどうでした?」
「とてもすばらしい料理を振舞ってくれましたよ。パーティーに招いた客人たちも大満足のようすでした。本当に助かりましたよ。さすがはランフォード家のメイドです」
俺のご機嫌をとろうとしているのはロコツだったが、プリシラの料理が上出来だったのは本当だろう。
応接室の扉が開く。
「パパー」
昨日見た、屋敷の主人の娘――ミューが応接室に入ってきた。
「こらこら、ミュー。勝手に入ってくるなんてお行儀が悪いぞ」
「パパー。プリシラ、帰っちゃうんだってー」




