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俺たちは急いで冒険者ギルドへと戻った。
「プリシラちゃんが請け負うのかい!?」
案の定、オーギュストさんは仰天した。
事情を話すと、オーギュストさんは「ふむ……」と難しい顔になった。
オーギュストさんが困るのもしかたない。腕の立つ料理人を連れてくると言って、実際にやってきたのがプリシラだったのだから。
プリシラは緊張した、しかし決意を秘めた面持ちをしている。
「わたしはアッシュさまのメイド。料理は心得ています」
「オーギュストさん。プリシラの料理の腕前は確かです。表通りの料理店でも通じるほどです」
本当にそうかどうかはわからないが、少なくとも俺はそう思う。
プリシラのつくる料理なら、どこに出しても恥ずかしくない。
「で、でも、キミは――」
オーギュストさんは途中で言葉をいったん止める。
そして短い沈黙の後、笑みを見せてこう言い直した。
「わかった。プリシラちゃんを信じるよ」
「おまかせくださいっ」
それから俺たちは馬車に乗り、依頼主のいる屋敷へと向かった。
ケルタス近郊の、小さな領地にある古めかしい屋敷。
四角い窓にはいずれにも淡い光が灯っている。
門番に冒険者ギルドから来たシェフの代理だと告げると、門番は門を開けてくれた。
「それではアッシュさま、行ってまいります」
「がんばれ、プリシラ」
プリシラの頭をなでる。
こわばっていた彼女の表情がほころんだ。
「アッシュさまの名を貴族のみなさまに広めてきますので、ご期待くださいっ」
「い、いや、そこまでしなくてもいいぞ……」
プリシラは堂々とした足取りで門をくぐっていった。
あとは彼女が無事に依頼を成し遂げるのを待つだけ。
――と思いきや。
「よし、ワシらも行くのじゃ」
スセリが俺の服を引っ張って馬車の陰に連れていく。
「スセリ。『行く』ってどういう意味だ?」
「そのままの意味じゃ――姿よ、消えよ!」
スセリが魔法を唱えると、俺と彼女の姿が半透明になった。
「お、おい、スセリ! なにをしたんだ!?」
「姿が見えなくなる魔法じゃよ。半透明じゃが、ワシとおぬし以外の人間からは姿を認識されん。これでプリシラの後を追うのじゃ」
そう言って馬車の陰から飛び出したスセリは、屋敷の門を駆け抜けていった。
門番が門を閉じようとしている。
スセリのやつ!
迷っている暇はない。
俺も慌てて門をくぐり、屋敷の中へと入っていった。
吹き抜けの広々としたロビー。
しん、と静まり返っている。
プリシラはそこで一人、ぽつんと立っていた。




