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38-5

 俺たちは急いで冒険者ギルドへと戻った。


「プリシラちゃんが請け負うのかい!?」


 案の定、オーギュストさんは仰天した。

 事情を話すと、オーギュストさんは「ふむ……」と難しい顔になった。

 オーギュストさんが困るのもしかたない。腕の立つ料理人を連れてくると言って、実際にやってきたのがプリシラだったのだから。

 プリシラは緊張した、しかし決意を秘めた面持ちをしている。


「わたしはアッシュさまのメイド。料理は心得ています」

「オーギュストさん。プリシラの料理の腕前は確かです。表通りの料理店でも通じるほどです」


 本当にそうかどうかはわからないが、少なくとも俺はそう思う。

 プリシラのつくる料理なら、どこに出しても恥ずかしくない。


「で、でも、キミは――」


 オーギュストさんは途中で言葉をいったん止める。

 そして短い沈黙の後、笑みを見せてこう言い直した。


「わかった。プリシラちゃんを信じるよ」

「おまかせくださいっ」


 それから俺たちは馬車に乗り、依頼主のいる屋敷へと向かった。

 ケルタス近郊の、小さな領地にある古めかしい屋敷。

 四角い窓にはいずれにも淡い光が灯っている。

 門番に冒険者ギルドから来たシェフの代理だと告げると、門番は門を開けてくれた。


「それではアッシュさま、行ってまいります」

「がんばれ、プリシラ」


 プリシラの頭をなでる。

 こわばっていた彼女の表情がほころんだ。


「アッシュさまの名を貴族のみなさまに広めてきますので、ご期待くださいっ」

「い、いや、そこまでしなくてもいいぞ……」


 プリシラは堂々とした足取りで門をくぐっていった。

 あとは彼女が無事に依頼を成し遂げるのを待つだけ。

 ――と思いきや。


「よし、ワシらも行くのじゃ」


 スセリが俺の服を引っ張って馬車の陰に連れていく。


「スセリ。『行く』ってどういう意味だ?」

「そのままの意味じゃ――姿よ、消えよ!」


 スセリが魔法を唱えると、俺と彼女の姿が半透明になった。


「お、おい、スセリ! なにをしたんだ!?」

「姿が見えなくなる魔法じゃよ。半透明じゃが、ワシとおぬし以外の人間からは姿を認識されん。これでプリシラの後を追うのじゃ」


 そう言って馬車の陰から飛び出したスセリは、屋敷の門を駆け抜けていった。

 門番が門を閉じようとしている。

 スセリのやつ!

 迷っている暇はない。

 俺も慌てて門をくぐり、屋敷の中へと入っていった。


 吹き抜けの広々としたロビー。

 しん、と静まり返っている。

 プリシラはそこで一人、ぽつんと立っていた。

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