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緊張が走る。
マリアの目論みどおりだろう。プリシラは「あわわわ……」とうろたえている。
「マリアが一枚上手じゃったようじゃのう」
「で、では、遠慮なくお借りいたします……。はうう……」
「存分に楽しんでくるといいですわ」
マリアは完全に正妻ぶっており、今にも高笑いしそうだった。
それから俺とプリシラの二人きりになると、プリシラはこう尋ねてきた。
「やはりアッシュさまは、マリアさまとご結婚されるのですか?」
「しない」
俺が即答すると、プリシラはほっと胸をなでおろした。
しかし、最近のマリアのあの余裕はいったいどこから来ているのだろう。
少し前までは、俺が他の女の子と仲良くしていると、あからさまに怒ってきたはずなのに。
なにか理由がある。きっと。
俺は一抹の不安をおぼえた。
翌日。
俺たちはめぼしい依頼がないか冒険者ギルドを訪れた。
「待っていたよ、アッシュくんたち!」
依頼掲示板を見にいこうとしたら、ギルド職員のオーギュストさんが俺たちを呼び止めた。
待っていた?
緊急の依頼でもあるのだろうか。
「実はキミたちに頼みたい依頼があるんだ」
「手ごわい魔物が現れたんですか?」
「いや、違うよ」
「それでは、遺跡の探索でしょうか」
「それも違うんだ」
オーギュストさんが依頼書を俺たちに渡してくる。
依頼書に目を通す。
依頼主はケルタス近郊の貴族。
至急、腕の立つ料理人を連れてきてほしいとのこと。
「今夜、この貴族の屋敷で社交パーティーが開かれるんだけど、シェフが急病で倒れてしまったんだ。その代わりをさがしてほしいとギルドに要請があったんだ。貴族を満足させられる料理を作れる料理人に心当たりはないかい?」
腕の立つ料理人……。
おそらく、俺もプリシラもスセリもマリアも、ある一人の人物の姿が思い浮かんだだろう。
「わかりました。料理人を連れてきます」
「本当かい!?」
「はい。説得できるかどうかは怪しいところですが」
「報酬はたんまりとあるから、そこは安心してほしい」
「報酬で動く人じゃないので」
「なるほど。職人気質なんだね」
「なんとか手を貸してくれるよう、お願いしてみます」
「ありがとう、アッシュくん。頼んだよ」
俺たちはさっそく『夏のクジラ亭』に帰り、ヴィットリオさんのところへ行った。
そして彼に先ほどの依頼の話を持ちかけた。
「断る」
やっぱりか……。
しかし、ここまでは予想どおり。
これからどうにかして彼を説得しないと。
「俺は金持ちに媚を売る気はない」
「困っている人を助けるつもりはありませんか?」
「ないな」




