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38-3

 緊張が走る。

 マリアの目論みどおりだろう。プリシラは「あわわわ……」とうろたえている。


「マリアが一枚上手じゃったようじゃのう」

「で、では、遠慮なくお借りいたします……。はうう……」

「存分に楽しんでくるといいですわ」


 マリアは完全に正妻ぶっており、今にも高笑いしそうだった。

 それから俺とプリシラの二人きりになると、プリシラはこう尋ねてきた。


「やはりアッシュさまは、マリアさまとご結婚されるのですか?」

「しない」


 俺が即答すると、プリシラはほっと胸をなでおろした。

 しかし、最近のマリアのあの余裕はいったいどこから来ているのだろう。

 少し前までは、俺が他の女の子と仲良くしていると、あからさまに怒ってきたはずなのに。

 なにか理由がある。きっと。

 俺は一抹の不安をおぼえた。



 翌日。

 俺たちはめぼしい依頼がないか冒険者ギルドを訪れた。


「待っていたよ、アッシュくんたち!」


 依頼掲示板を見にいこうとしたら、ギルド職員のオーギュストさんが俺たちを呼び止めた。

 待っていた?

 緊急の依頼でもあるのだろうか。


「実はキミたちに頼みたい依頼があるんだ」

「手ごわい魔物が現れたんですか?」

「いや、違うよ」

「それでは、遺跡の探索でしょうか」

「それも違うんだ」


 オーギュストさんが依頼書を俺たちに渡してくる。

 依頼書に目を通す。

 依頼主はケルタス近郊の貴族。

 至急、腕の立つ料理人を連れてきてほしいとのこと。


「今夜、この貴族の屋敷で社交パーティーが開かれるんだけど、シェフが急病で倒れてしまったんだ。その代わりをさがしてほしいとギルドに要請があったんだ。貴族を満足させられる料理を作れる料理人に心当たりはないかい?」


 腕の立つ料理人……。

 おそらく、俺もプリシラもスセリもマリアも、ある一人の人物の姿が思い浮かんだだろう。


「わかりました。料理人を連れてきます」

「本当かい!?」

「はい。説得できるかどうかは怪しいところですが」

「報酬はたんまりとあるから、そこは安心してほしい」

「報酬で動く人じゃないので」

「なるほど。職人気質なんだね」

「なんとか手を貸してくれるよう、お願いしてみます」

「ありがとう、アッシュくん。頼んだよ」


 俺たちはさっそく『夏のクジラ亭』に帰り、ヴィットリオさんのところへ行った。

 そして彼に先ほどの依頼の話を持ちかけた。


「断る」


 やっぱりか……。

 しかし、ここまでは予想どおり。

 これからどうにかして彼を説得しないと。


「俺は金持ちに媚を売る気はない」

「困っている人を助けるつもりはありませんか?」

「ないな」

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