38-2
俺の返事を落ち着かないようすで待っているプリシラ。
そんないじらしいしぐさを見ていると、どうしても彼女の期待に応えたくなってしまう。
だから俺は彼女の頭に手を乗せて、こう答えた。
「なら、二人で行こう」
「よいのですか!?」
「他でもないプリシラのお願いだからな」
「か、感激です……っ!」
本当に感激したらしい。プリシラは感激のあまり、目の端に涙を浮かべさせた。
涙ぐむくらいよろこばれるなんて、俺も果報者だな。
ハンカチで涙をぬぐったプリシラはにこにこ笑顔になった。
「わたし、こういう日が来たときのためにヴィットリオさまから料理を教わっていたのです。アッシュさまのために、とびきりのお弁当を用意いたします」
「楽しみにしているぞ、プリシラ」
「腕によりをかけてごちそうをつくってみせますっ」
それから俺とプリシラは『夏のクジラ亭』に帰り、スセリとマリアと共に昼食をとった。
「いよいよあさっての夜ですわね」
「赤き月じゃな」
「もちろん、みんなで見ますわよね?」
「うむ。夜空がよく見える場所をさがしておかねばな」
スセリとマリアは四人で赤き月を見るものだと思って、楽しそうにしゃべっている。
プリシラは俺と二人きりで赤き月を見にいくのをスセリたちに言おうとしているみたいだが、なかなか言い出せずにいる。
「なあ、スセリ、マリア」
だから俺が代わりに言うことにした。
「俺とプリシラは二人と見にはいけないんだ」
「のじゃ?」
「どういうことですの?」
「約束したんだ。俺とプリシラ、二人きりで赤き月を見にいくって」
しん……。
沈黙が訪れる。
目をしばたたかせているスセリとマリア。
「はううう……」
プリシラは気まずそうに縮こまっている。
しばしの静寂の後、マリアは余裕ぶった態度でこう返事をした。
「わかりましたわ。二人でいってらいっしゃいな」
意外だった。
俺と結婚するのにこだわっているマリアのことだから、プリシラに俺を取られたのだと曲解して取り乱すとばかり思っていた。
「ちなみにですけれど、どちらが誘いましたの?」
「俺だよ」
「い、いえっ。わたしがアッシュさまをお誘いしたんですっ」
プリシラが白状すると、マリアは不敵な笑みを浮かべた。
「やりますわね、プリシラ。まさかあなたに先んじられてしまうだなんて」
「も、申し訳ありません……」
「後ろめたい気持ちになる必要はありませんことよ。恋というものは早い者勝ちなのですから。ですわよね? スセリさま」
「それにしても、いつの間にやら大胆になったのう、プリシラよ」
「い、いえ、それほどでも……。てへへ」
二人が素直に俺を譲ってくれて、ほっとしたようすのプリシラ。
だが、しかし――
「今回は『わたくしの』アッシュを『貸して』さしあげますわ」
マリアはわざとらしいくらい『わたくしの』と『貸して』を強調してそう言った。




