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37-7

 俺はしばし呆然としていた。

 セヴリーヌは「にひひっ」と白い歯を見せて笑っている。まるで、いたずらに成功した子供みたいに。


「やっとアッシュとキスできたぞ」


 それから俺の腕を強く抱きしめる。

 そして俺の顔を見上げてくる。


「これで結婚できるな」


 おそらく言うだろうとは思っていた。

 だから俺は、冷静にこう返事ができた。


「セヴリーヌ」

「うん?」

「俺はお前とは結婚しない」

「なっ!?」


 がく然とするセヴリーヌ。

 それからぷんすか怒りだす。


「どうしてだよッ。たった今、キスしただろ」

「セヴリーヌが一方的にな。互いの気持ちが通じ合って初めて結婚というのは成立するんだ」


 彼女には少し難しい話だったらしく、眉間にシワをよせている。


「アタシはアッシュが好きだぞ。アッシュはアタシが嫌いなのか……?」


 前にも同じ質問をされたっけな。


「好きさ――友達としてな」

「友達……」

「そうだ。俺とセヴリーヌは友達だ」


 セヴリーヌの肩にやさしく手を置く。

 彼女は腕の力を弱め、するりと俺の腕から離れた。

 しょぼん、とうなだれる。


「セヴリーヌが俺を想っている気持ちも、友達として『好き』なんだ」

「そうなのか……?」

「本当に結婚したいと思っている――つまり、恋をしているなら、『好き』って言葉は軽々しく口にできないものなんだ」

「好きなのに好きって言えないのか?」

「ああ。ふしぎだろ?」

「ふしぎだぞ」


 さて、これで彼女は納得してくれるといいんだが。

 俺に結婚を断られたのがこたえているらしく、肩を落としてしょぼくれているセヴリーヌ。

 いたたまれない気持ちになる。


「アッシュと結婚したいって気持ちは、偽物なのか……?」

「別に結婚しなくたって、俺たちはいつもいっしょだろ?」


 彼女を元気づけるため、俺はこう提案した。


「結婚はできないが、親友になろう。セヴリーヌ」

「しんゆー?」

「友達のさらに上の友達だ」


 するとセヴリーヌの目がまたたく間に輝きだした。


「友達よりもっとすごい友達!? その『親友』っていうのになってくれるのか!?」

「セヴリーヌさえよければな」

「なる! 親友になるぞ、アッシュ!」


 彼女は目をきらきらさせながらぴょんぴょんその場で飛び跳ねる。


「お、落ち着けよ……」

「やったーっ。アタシとアッシュは親友だーっ」


 よろこんでくれてなによりだ。

 よろこびを身体いっぱいで表現する彼女を見ていると、つい笑みがこぼれてしまう。 


「親友になったってことはつまり、アタシの言うことなんでも聞いてくれるんだよなっ」

「それは違うぞ!?」


 少し勘違いされた気もするが、まあ、いいだろう。

 元気はつらつで、自由奔放で、ちょっと――いや、かなりワガママで、そしてそれがどうしてか愛おしい、不老の少女。

 そんな彼女に振り回されるのも悪くない。

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