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4-4

「マリア! 早くしろ!」


 馬車からマリアの父親がいらだちを含んだ声で叫ぶ。

 マリアはそんな声を無視する。


「わたくし、これからもアッシュに会うつもりですわ」


 大人たちへのせいいっぱいの反抗の証として、勝気な笑みを見せる。


「今度アッシュと会ったら屋敷に閉じ込めると言われましたけど、構いませんわ」


 マリアは俺にウィンクしてみせる。


「どんな障害がこの先立ちはだかろうと、わたくしとアッシュは結ばれる運命にありますもの」


 そして左手の薬指はめられた指輪を俺に見せてきた。

 美しいドレスには不釣り合いな、安っぽい指輪だった。それは彼女の一番の宝物だった。

 ある意味、運命の指輪だ。


 マリアが馬車に乗り込むと、馬車はすぐさま俺たちの前からいなくなった。

 貴族たちは全員帰路につき、残されたのは俺とプリシラだけになった。

 しん、と静まり返る。


 幼いあの日、俺とマリアが出会わなかったどうなっていただろう。

 俺が指輪を渡さなかったら、どんな関係になっていただろう。

 夜空に飾られた満月を見上げながら、そんなことをふと考えた。


「今回はハズレじゃったな」


 スセリが実体化して俺たちの前に現れた。


「なにがハズレなのですか? スセリさま」

「ワシの新たな肉体さがしじゃよ。マリアとその両親の潜在魔力を測ってみたが、いずれも凡人の域を出ておらんかった」

「まさか、そうじゃなかったらマリアの肉体を乗っとるつもりだったのか!?」

「むろんじゃ。ワシはそのために魂を『オーレオール』に封じておるのじゃからな」


 そう言われて、俺はようやくあることに気付いた。


「肉体に魂を移すということは、元の肉体の魂はどうなるんだ?」

「肉体からはじき出され、消滅するじゃろうな」

「ふえええっ!?」


 プリシラがすっとんきょうな声を上げた。

 やっぱりそうなるのか!


「スセリ、お前もしかして、なんの罪もない人間の身体を乗っ取るつもりじゃないだろうな」

「『稀代の魔術師』とうたわれたワシに肉体を渡すのじゃ。これは極めて光栄なことじゃぞ」

「おいおいおい!」

「そんなのダメですよぉ!」


 スセリのその行為は実質人殺しだ。

 そんな野望に手を貸すわけにはいかない。


 そうしろと強制されるのなら、俺は即刻『オーレオール』を焼き捨てる。

 俺の思考を読み取ったのか、スセリは心底面倒くさそうに頭をかいた。


「わかったわかった。なら、肉体を奪われても文句がないような悪党か、死んで間もない新鮮な肉体を依り代として選ぶわい。……まったく、面倒なヤツを選んでしまったわい。ワシはいつになったら人間に戻れるのやら」

「一度死んだなら諦めろ。死は平等なんだからな」

「ワシは『稀代の魔術師』じゃぞ。摂理や運命など容易に覆せるのじゃ」


 のーじゃっじゃっじゃっ。


 スセリのヘンテコな高笑いが夜の空に響いた。

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