37-6
「スセリ。お前の野望って――」
「いずれわかるのじゃ。いずれ、な」
やはり教えてくれる気はないらしい。少なくとも、今は。
不老の身を得たというのに、これ以上スセリはなにを求めるというのだろう。
それからある日、俺は一人でセヴリーヌの家を訪れた。
プリシラとマリアとスセリは、女の子のたちだけで買い物に出かけ、俺は『夏のクジラ亭』に置いてきぼりにされていたのだ。
「ようこそ、アッシュさま」
家を守護するゴーレム、ウルカロスがあいさつしてくる。
「セヴリーヌはいるか?」
「魔法の研究をされているかと」
セヴリーヌの家に上がる。
彼女はテーブルに置かれた、魔法道具らしき球体とにらめっこしていた。
真剣な表情。
俺の来訪に気付いていない。
「セヴリーヌ」
「うわっ」
声をかけると、セヴリーヌは驚いて飛び上がった。
「アッシュ!」
セヴリーヌは歓喜の声を上げて俺に飛びついてきた。
俺の胸に無遠慮に頬ずりしてくる。
頭をなでると、彼女は気持ちよさそうに目を細めた。
「アタシに会いにきてくれたのか」
「退屈だったからな」
「退屈じゃなくても毎日来いよ」
セヴリーヌはテーブルに置かれた球体を俺に見せてくる。
「悪魔アズキエルが封印されていた宝珠を真似して、魔法道具を作ってるんだ。これに魔力を蓄積させて仮想世界を生み出すんだ」
どうやらスセリを真似してボードゲームの世界をつくっているらしい。
「完成したらみんなで遊ぶぞ。アタシのつくった世界で」
「楽しみに待ってるよ」
「ああっ」
セヴリーヌは屈託のない笑みを見せた。
それから俺と彼女はヴィットリオさんが持たせてくれた弁当をいっしょに食べた。
今日の献立はパンと煮込みハンバーグ。
セヴリーヌは口元が汚れるのも構わずパンとハンバーグに食らいつき、あっという間に平らげてしまった。
「俺のも食べるか?」
「ほしっ――い、いや、アッシュが食べろ。それはアッシュの分だからな」
欲望を理性が制し、セヴリーヌは俺の申し出を断った。
二人とも昼食を食べおわり、テーブルの上は料理を入れてきた編みカゴだけになった。
満足げなセヴリーヌ。
その後は二人でカードゲームをして遊んだ。
相手の手札を取り合って同じ札をそろえていくという単純なルールで、実力の絡まない、ほぼ運のみが勝敗に影響するするゲームだったから、いい感じに勝ったり負けたりした。
そして、何度目かのゲームが終わったとき、セヴリーヌはなにか思い出したらしく「あっ、そうだ」と席を立った。
「どうした?」
「アッシュに『コレ』をするのを忘れてたぞ」
セヴリーヌが俺の隣にやってくる。
そして、ほっぺたに『チュッ』と口づけをした。
「なっ!?」
「スセリだけキスするなんてずるいからな」




