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「では、今度はセヴリーヌさまのつくったボードゲームで遊びましょうっ」
プリシラがそう提案する。
「わかった。すっごく楽しいゲームを考えておくからなっ」
「楽しみに待ってますね」
セヴリーヌはごきげんになった。
最初はどうなることかと思ったが、気が付けば俺たちとセヴリーヌのきずなが以前よりも強くなっていた。
スセリはこうなるよう、はじめから画策してた……というのは深読みしすぎだろうな。
とにもかくにも、今日はいい一日だった。
俺にとっても、セヴリーヌにとっても。
それから数日後、俺とプリシラ、スセリにマリアはセヴリーヌの家でボードゲームで遊んだ。
仮想世界を構築する魔法はまだうまくいっていないらしく、代わりにセヴリーヌは紙にマスを描いた自作のボードゲームを用意していた。出来は拙かったが、俺たちはそれで楽しく遊んだ。
セヴリーヌは大勢で遊ぶことの楽しさを知ったらしい。
以前は俺だけを自分の家に連れ込んでいたが、最近はプリシラたちもいっしょに家に誘ってくるようになった。
そしてみんなでボードゲームやカードゲームで遊んだり、浜辺に出て海で遊んだりもした。
「なあ、スセリ。セヴリーヌってどうして一人で街から離れた家で暮らしてたんだ?」
夜。『夏のクジラ亭』の庭に俺とスセリは二人きりでいた。
「昔からずっとああだったのか?」
「いんや。昔はケルタスの市街地で暮らしておった。家族とな」
「家族……」
「なにを驚いておるんじゃ。あやつとて人の子。親がいるに決まっておるじゃろ」
「た、たしかに」
想像する。セヴリーヌが両親と仲良く暮らしているのを。
しかし、彼女は今、一人で暮らしている。
当然だ。彼女は不老の身になって、100年以上経っている。両親はとうに亡くなっている。
「家族は不老にはならなかったのか?」
「やろうとしてもできなかったのじゃ。ワシとセヴリーヌは『稀代の魔術師』と呼ばれてはいるが、やはり不老の魔法は困難を極める。自分の身を不老にすることしかかなわなかったのじゃ」
セヴリーヌはひとりぼっちに『なってしまった』わけだな……。
子供の精神のまま、両親に先立たれた彼女の悲しみはどれほどだったのだろう。想像するだけで胸が痛くなる。
両親だけではない。彼女にいたであろう友人たちも彼女を置いて歳をとり、死んでしまった。
万物が流されてゆく時間の流れの只中に彼女は一人、立ち止まっている。
「あやつは知ってしまったのじゃ。親しい者との離別のつらさを」
だからセヴリーヌは街から離れた海辺で一人、暮らしている。




