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36-6

 結局マリアとセヴリーヌは1マス進んだだけで振り出しに戻るハメになった。


「次はワシの番じゃな。のじゃじゃじゃ」


 その笑いかた、ぜったいなにか企んでいる……。

 スセリがダイスを放り投げる。

 ゴトッ。

 出た目は――1、2、3、4、5、6、7……20!?


「ふざけるなッ! どうして6面のダイスで20が出るんだッ」


 セヴリーヌが当然の文句を言う。

 しかしスセリは全く意に介さぬようす。


「出るのじゃから出たのじゃよ。この世界ではダイスこそ唯一にして絶対の法則なのじゃ」


 平然とそう言ってのけた。

 だとすれば、スセリはこの世界の神さまだな。

 スセリは悪びれもせず、軽やかな足取りでマスを進んでいき、ぽかんと立ち尽くす俺とプリシラを追い越して先に行ってしまった。


 今のでわかった。

 このゲーム、スセリにはどうあがいても勝てない。

 彼女の舞台に上がった時点で、勝負は決していたのだ。


「さーて、アッシュにどんな命令をしてやろうかの。のじゃじゃじゃ」


 スセリは早くもそんなひとりごとを言っていた。


「いくらスセリさまでも、アッシュさまは渡せませんっ」


 プリシラがぐっとこぶしを握り締める。

 彼女の闘志の炎はまだ消えていなかった。

 ダイスが俺たちの足元に転移してくる。


「いきますよー。てえーいっ」


 プリシラは渾身の力でダイスを投げた。

 ダイスはまたも6の目を出した。

 ドヤッとした顔をするプリシラ。


「ほう、なかなかやるではないか」

「すぐにスセリさまに追いついてみせますからね」


 俺とプリシラは6マス進む。


「またマスになにか書いてありますね」

「えーっと――」


 ――恥ずかしい秘密を打ち明ける。そうしたら4マス進む。


「はっ、恥ずかしい秘密ですかっ!?」

「アッシュかプリシラ、どちらか一人でいいのじゃ」

「俺は別に恥ずかしい秘密なんてないぞ」

「なら、プリシラじゃな」

「は、はうっ」


 プリシラが赤面する。

 スセリはニヤニヤと笑っている。


「プリシラ。無理に言わなくてもいいんだぞ」

「い、いいえ。ここで4マス進めたらスセリさまに追いつけるのです。わたし、恥ずかしい秘密を打ち明けますっ」


 大きく息を吸い込み、それからプリシラはこう叫んだ。


「じ、実はわたし――耳付け根をなでられると気持ちよくなるんですーっ!」


 ……。

 皆、沈黙する。

 叫び終え、ぜえぜえ肩で息をしているプリシラ。


 い、今のは恥ずかしいのか……?

 プリシラの頭の頂点に生えた獣耳がぴこぴこ動いている。

 空中に映るスセリは期待外れといった表情をしている。


「……よかろう。4マス進むのじゃ」

「アッシュさま、やりました!」

「あ、ああ……」

「あの、それで……。今度から頭をなでてくださるときは――」

「耳の付け根だな」

「は、はい」


 プリシラははにかみながらうなずいた。

 追加で4マス進み、スセリに追いつく。


「ここが気持ちいいのじゃな?」

「きゃっ。くすぐったいですスセリさまっ」


 さっそくスセリはプリシラの耳の付け根をなでていた。

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