4-3
マリアはひどく落ち込んだ面持ち。
両親に連れられてうつむきながらこちらに歩いてくる。
両親の表情もひどく不機嫌そうで、おおよそパーティーの後に見せる表情ではない。
その三人が俺とプリシラの前に立つ。
それからマリアの父親が俺に向かって忌々しげに言った。
「今後、二度と娘には近づくな。『出来損ない』」
瞬間、プリシラが肩をいからせて牙をむき出しにする。
プリシラが怒っている。
あの優しいプリシラが、俺のために。
「よせ、プリシラ」
俺は激昂するプリシラをなだめる。
「ですが、アッシュさま!」
「いいんだ」
マリアの両親はその言葉を残して馬車に入っていった。
マリアは俺たちの前で立ち止まっていた。
「わたくし、くやしいですわ」
手を固く握り、下唇をかみしめている。
「お父さまに、もうアッシュに依頼を出すなと言われましたわ」
まあ、そうだろうな。
こうなることは予想できていた。
だが、マリアはそのことでくやしがっている。
社交パーティーで必死に両親を説得したが、かなわなかったのだろう。
そしておおかた、他の有力貴族の息子でも紹介されたのだろう。結婚相手として。
で、マリアは「嫌ですわ!」と断って今に至る、と。
「アッシュは『出来損ない』なんかじゃありませんわ」
「別にどうでもいいよ、俺は」
「わたくしはよくありませんの!」
マリアがそう声を荒らげる。
「わたくしの知っているアッシュは他人を思いやる立派な人ですわ」
「わたしもそう思いますっ」
プリシラがマリアに同意する。
「アッシュさまをぶぞく……はわわっ」
舌を噛むプリシラ。
「アッシュさまを侮辱する人は許しませんっ」
「俺は――」
見下されているのにはとっくに慣れていた。
だから、大して関わりのない他人からの評価なんてちっとも興味がなかった。
プリシラとマリアに慕われているだけでじゅうぶんだった。
「アッシュ。わたくしとアッシュのなれそめはおぼえていまして?」
俺とマリアのなれそめ……。
確かそれも社交パーティーのときだったか。
マリアが広い屋敷で迷子になっていたところを、俺が見つけたんだっけな。
俺は泣きべそをかくマリアをあやし、手を握って両親のところまで連れていったんだ。
「わたくし、今でもおぼえていますわ。アッシュの手のぬくもり……」
それからルミエール家がランフォード家の屋敷に招待されるたび、マリアは俺に会いにきてくれた。
自分の屋敷から持ってきた焼き菓子を分けてくれて、いっしょに食べた。
マリアが『出来損ない』と関わり合いになるのをマリアの両親も俺の父上も快く思っていなかったが、マリアはそんな大人たちのことなど気にせず俺と友だちになってくれた。
――まあ、すてきな指輪!
俺はそんな彼女にお礼がしたいと、指輪を召喚してプレゼントしたのだ。
……思い出したときは恥ずかしくて、単なる気まぐれだとうそをついてしまったが。
大人のサイズの指輪だったから、幼いマリアの指にはまらなかったが、それでも彼女はよろこんでくれた。
思い返せば、自分の意思で金属召喚をしたのはあれがはじめてだったのか。
とはいえ、それが結婚の約束になるとは思いもよらなかったが……。




