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そういうわけで、明日は二手に分かれて仕事をすることになった。
俺とマリアはギルドで受けた護衛の依頼。
プリシラとスセリは『夏のクジラ亭』でクラリッサさんたちの手伝い。
「ありがとう、アッシュくん。お駄賃ははずむからね」
「ははっ。期待してます」
「プリシラちゃんはヴィットリオと食事の準備。スセリちゃんは私とベッドメイキングを手伝ってちょうだい」
「かしこまりましたっ」
「わかったのじゃ」
翌日。
俺とマリアはプリシラとスセリを残して『夏のクジラ亭』を発った。
街の外へ出る門の前に、今回護衛する依頼主はいた。
依頼主は商人で、ケルタスで仕入れた品を持って自分の店のある村へと帰るのだという。
商人は男の老人で、腰が曲がっており、髪も眉毛も真っ白だった。
「助かるのう。こんな老いぼれでは魔物に出くわしたらひとたまりもないからの」
品物を載せた荷台を引く馬も、相当年老いていた。
俺とマリアは品物といっしょに荷台に乗る。
老人は御者の席に座る。
そうして俺たちはケルタス街を出たのであった。
馬車はのんびりと街道を進んでいく。
晴れた空。
静かな平原。
のどかだ。
ときおり車輪が石を乗り上げ、馬車ががたんと揺れて、眠気を覚ましてくる。
「退屈ですわね」
マリアが口元に手を当ててあくびをする。
街道はしっかり整備されており、魔物は基本的に近寄ってこないだろうし、こんな昼間に野盗が現れることもないだろう。この老人一人だけならともかく、冒険者である俺とマリアがいるからなおさら。
「しっかし、ケルタスは本当に騒々しい街じゃのう」
手綱を握りながら老人が言う。
「そうですわね。わたくしもはじめてケルタスに来たときは圧倒されましたわ」
「おや、お嬢さんはケルタスの出身ではなかったのじゃな。垢抜けておったから、てっきりケルタスの人間かと思っておったわ」
俺たちは大陸の南部からやってきたことを告げる。
「おやまあ、そんな遠くから来たとは。若いと元気があるのじゃのう」
老人は「ほっほっほっ」と笑う。
「ところで、お前さんたちは恋人同士なのかの?」
「はい。そうですわ」
「いやいや、違うだろ」
予想どおりマリアが即答したので、俺も即座に否定した。
「そうでしたわね。わたくしたち、婚約者だったのですわね」
「ほう、婚約者とな」
「わたくしたち、相思相愛ですのよ」
「ほっほっほっ。それはそれは。ワシも村に残したばあさんを昔から変わらず愛しておるのじゃ」
「わたくしたちも、幾年経とうと変わらぬ愛を貫いてみせますわ。ですわよね? アッシュ」
いちいち否定していてはキリがないので、俺はもはやなにも言わなかった。




