35-1
「……え?」
「結婚だ」
俺はあ然としていた。
け、結婚……?
「アタシ、お前といるとすっごく楽しいんだ。だからこれからもずっと一緒にいるために結婚するぞ」
セヴリーヌはニコニコしながらそう言った。
ようやく理解が追いついて焦りだす俺。
「ちょっ、ちょっと待て、セヴリーヌ! 結婚はそんな単純なものじゃないぞ!」
「じゃあ、どんなものなんだよ」
「そ、それは……」
セヴリーヌに問われて言い淀んでしまう。
「結婚っていうのはだな、恋愛を経てだな……。いや、貴族の場合はどちらかというと家同士の繋がりが――」
「レンアイ? 恋するってことか? アタシはアッシュが好きだぞ。お前といると楽しいんだ」
「楽しいのと恋とはまた別物だ」
「違うのか? ややこしいな」
眉をひそめるセヴリーヌ。
「とにかく、アタシと結婚するぞ。いいな?」
「よくない」
「なんでだよっ」
「結婚はそんなかんたんにするもんじゃ――」
と、そこで気付いた。
セヴリーヌの目がうるんでいるのに。
口もふにゃふにゃになっている。
「アッシュはアタシが嫌いなのか……?」
「きっ、嫌いなわけないだろ!」
「なら、どうして結婚を嫌がるんだよぉ……」
「嫌がってるわけじゃ……」
「なら、結婚しろよ」
困った。
大いに困った。
マリアやディアのみならず、まさかセヴリーヌからも求婚されるとは。
しかも彼女は思考がかなり幼い。
ゆえに、説得に困難を有する。
まずは結婚がどういうものかをちゃんと教えるべきか……?
「なんなのじゃ。朝っぱらからやかましいのじゃ」
俺たちの前にスセリがやってきた。
「セヴリーヌ。おぬしまたこんな朝早くにやってきたのか。アッシュのことがよほど気に入ったと見える」
「アタシは決めたんだ。アッシュと結婚するって」
「結婚……?」
ぽかんとするスセリ。
それから彼女は腹を抱えて大笑いした。
「おぬしが結婚じゃと! ままごとではないのじゃぞ」
「アタシは本気だ!」
俺の腰に抱きついてくるセヴリーヌ。
ぎゅーっ。
彼女に強く締めつけられる。
「ならばセヴリーヌよ。結婚するなら当然、キスは済ませているのじゃろうな?」
「へ? キス?」
「やれやれ。そのようすじゃとキスがどんなものかも知らんようじゃの」
するとスセリは俺に近寄ってきて――
背伸びして、俺の頬に口づけした。
「ス、スセリ!」
「のじゃじゃじゃじゃっ」
俺が声を上げるも、彼女はいつもの変な笑い声を上げていた。
セヴリーヌは今の行為の意味がわからないのか、ぽかんと呆けている。
これまでからかわれることは何度もあって、いい加減スセリの突拍子もない行動に慣れたと思っていたが、まさかキスをされるだなんて……。
胸が早鐘を打っている。
スセリは変なヤツだが、見た目は銀髪の美少女だ。
そんな少女に口づけをされて平静でいられようか……くやしいが。




