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34-7

「アッシュ! 起きろーっ」


 ぼふっ。

 何者かにのしかかられて俺は目を覚ました。

 目を開ける前から『何者か』が誰かはわかっていた。


「ねぼすけだなー、アッシュは」


 セヴリーヌが俺の上にまたがっていた。

 彼女は俺を『ねぼすけ』と言ったが、断じてはそうではない。

 時計はまだ、朝を示して間もない。

 燃えるような朝焼けが、薄いカーテン越しに部屋を赤く染めている。


「あははっ。寝ぐせがついてるぞっ」


 セヴリーヌは俺の跳ねた髪を面白そうにつついている。

 つんつん。

 つんつん。


「とりあえずセヴリーヌ。そこをどいてくれ」


 彼女がベッドから降りて、俺はようやく自由を得られた。

 それにしても早起きだな。セヴリーヌ。

 以前は夜更かしして昼頃に目を覚ますような生活だったらしいが。

 ……俺のために早起きしてくれているのなら、悪い気はしないかも。


「早く顔洗ってこい」

「朝食は食堂で食べていくんだろ?」

「そのつもりだぞ。ヴィットリオの作りたての料理、食べたいからな」


 二人して部屋から出る。

 並んで廊下を歩く。

 廊下はしんと静まり返っている。

 プリシラもスセリもマリアも、まだ寝ているようだ。


「朝食を食べたらアタシの家に行くぞ」

「わかってるよ。今日もボードゲームか?」

「ああ。この前、プリシラやマリアと買い物にいって、新しいボードゲームを買ったんだ。それで遊ぶぞ」


 最近セヴリーヌはプリシラやマリアとも交友関係を持つようになって、彼女たちで街へ遊びにいくようになった。

 友達が増えたのはいいことだ。

 とはいえ、もっぱら一番の遊び相手は俺なのだが。


「まあ、アッシュがカードゲームで遊びたいって言うのならカードゲームでもいいけどな」

「ボードゲームでいいさ。それで遊ぼう」


 井戸で顔を洗うため庭に出る。


「なあ、アッシュ。アタシのこの服、似合ってるか?」


 セヴリーヌがスカートの端を持ち上げながら尋ねてくる。

 彼女の髪の色と同じ、淡い桃色のかわいい服だ。


「セヴリーヌにぴったりだな」

「ホントか!? やったーっ」


 彼女はぴょんぴょん飛び跳ねて、喜びを身体いっぱいで表現した。

 不老の魔術師も、こうしていればどこにでもいる普通の女の子だな。

 むじゃきで、わがままで、ちょっと自己中心的で、でもそこが愛おしい。


 気がつけば俺は、セヴリーヌに振り回されるのが楽しくなっていた。

 まるで妹ができたみたいで。

 プリシラも妹みたいだが、出来の良い彼女とはまた違った性質の妹で、それが新鮮だった。


「あ、そうだ、アッシュ」

「うん? どうした?」


 セヴリーヌはなにげない口調で俺にこう言った。


「アッシュ。アタシと結婚するぞ」 

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