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視線に気づいたのか、プリシラがこちらを向く。
そして幼い照れ笑いを見せてくれた。
「アッシュさま。そんなに見つめられると恥ずかしいです……」
「つい、見とれてしまったんだ」
「わ、わたしなんかにですか? 花火ではなく?」
自分を指さすプリシラ。
「プリシラはかわいいからな」
「かっ、かわいい!? て、てへへ……」
くすぐったそうに彼女は身をくねらせてた。
そのしぐさもまた愛おしい。
……と思いきや、プリシラはいきなりふくれっ面になった。
「では、アッシュさまに問題です。今のわたしはどんな気持ちでしょう?」
「えっ!?」
いきなりそんな問いかけをされて俺は戸惑う。
プ、プリシラの今の気持ち……?
彼女は今、ほっぺたを膨らませている。
「も、もしかして……怒ってるのか?」
「正解です」
ほっぺたを膨らませたまま彼女はそう言った。
照れ笑いを浮かべていたと思ったら、今度は怒り出した……。
どういうことかさっぱりわからず、俺はうろたえていた。
「わたしが怒っている理由、わかります?」
「……すまん。まったく心当たりがない」
「こっぽっちもですか?」
「ああ」
するとプリシラは、すぼめた口から息を吐き、膨らんだほっぺたをもとに戻した。
「アッシュさま、ここのところセヴリーヌさまとばかり遊んでいるではないですか」
「それで腹を立てていたのか?」
「そのとおりです」
意外な理由だった。
まさかプリシラがやきもちをやいていたなんて。
彼女は嫉妬なんてしない女の子だと思っていた。
プリシラはまだ眉をひそめて俺を非難している。
「このままではわたし、アッシュさまのメイドをやめちゃうかもしれませんよ」
「ええっ!?」
思わず大声を上げてしまった。
プリシラは腕組みをしてそっぽを向いている。
俺はプリシラに愛想をつかされたのか!?
「ちょっと待ってくれプリシラ!」
「だってアッシュさま、わたしをずーっとほったらかしにするんですもの」
「そ、それはセヴリーヌに強引に……」
「わたしよりセヴリーヌさまのほうが大事なんですか?」
「い、いや、そんなことは……」
な、なんか主従関係が逆転しているような……。
確実なのは、主導権は間違いなくプリシラにあることだった。
「……ぷっ」
慌てふためいていると、プリシラが噴き出す。
「うふふっ。アッシュさま、取り乱していらっしゃいますねっ」
彼女はいたずらっぽい口調でそう言った。
表情が普段どおりに戻っている。
「マリアさまやスセリさまのおっしゃったとおりです」
「ど、どういうことだ?」
「お二人が教えてくださったんです。アッシュさまを振り向かせる方法を」
スセリとマリアの入れ知恵だったのか……。
どうりでプリシラらしからぬ発言だと思った。
俺は安堵の息をついた。
「ご安心ください。わたしはどんなことがあろうとアッシュさまのおそばにいます」
メイドらしくおじぎをする。
「でも、セヴリーヌさまのお相手ばかりされて、さみしく感じたのは本当ですからね」
すねた口調で彼女はそう言った。
これはたぶん、本音だろう。




