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237/842

34-5

 視線に気づいたのか、プリシラがこちらを向く。

 そして幼い照れ笑いを見せてくれた。


「アッシュさま。そんなに見つめられると恥ずかしいです……」

「つい、見とれてしまったんだ」

「わ、わたしなんかにですか? 花火ではなく?」


 自分を指さすプリシラ。


「プリシラはかわいいからな」

「かっ、かわいい!? て、てへへ……」


 くすぐったそうに彼女は身をくねらせてた。

 そのしぐさもまた愛おしい。

 ……と思いきや、プリシラはいきなりふくれっ面になった。


「では、アッシュさまに問題です。今のわたしはどんな気持ちでしょう?」

「えっ!?」


 いきなりそんな問いかけをされて俺は戸惑う。

 プ、プリシラの今の気持ち……?

 彼女は今、ほっぺたを膨らませている。


「も、もしかして……怒ってるのか?」

「正解です」


 ほっぺたを膨らませたまま彼女はそう言った。

 照れ笑いを浮かべていたと思ったら、今度は怒り出した……。

 どういうことかさっぱりわからず、俺はうろたえていた。


「わたしが怒っている理由、わかります?」

「……すまん。まったく心当たりがない」

「こっぽっちもですか?」

「ああ」


 するとプリシラは、すぼめた口から息を吐き、膨らんだほっぺたをもとに戻した。


「アッシュさま、ここのところセヴリーヌさまとばかり遊んでいるではないですか」

「それで腹を立てていたのか?」

「そのとおりです」


 意外な理由だった。

 まさかプリシラがやきもちをやいていたなんて。

 彼女は嫉妬なんてしない女の子だと思っていた。

 プリシラはまだ眉をひそめて俺を非難している。


「このままではわたし、アッシュさまのメイドをやめちゃうかもしれませんよ」

「ええっ!?」


 思わず大声を上げてしまった。

 プリシラは腕組みをしてそっぽを向いている。

 俺はプリシラに愛想をつかされたのか!?


「ちょっと待ってくれプリシラ!」

「だってアッシュさま、わたしをずーっとほったらかしにするんですもの」

「そ、それはセヴリーヌに強引に……」

「わたしよりセヴリーヌさまのほうが大事なんですか?」

「い、いや、そんなことは……」


 な、なんか主従関係が逆転しているような……。

 確実なのは、主導権は間違いなくプリシラにあることだった。


「……ぷっ」


 慌てふためいていると、プリシラが噴き出す。


「うふふっ。アッシュさま、取り乱していらっしゃいますねっ」


 彼女はいたずらっぽい口調でそう言った。

 表情が普段どおりに戻っている。


「マリアさまやスセリさまのおっしゃったとおりです」

「ど、どういうことだ?」

「お二人が教えてくださったんです。アッシュさまを振り向かせる方法を」


 スセリとマリアの入れ知恵だったのか……。

 どうりでプリシラらしからぬ発言だと思った。

 俺は安堵の息をついた。


「ご安心ください。わたしはどんなことがあろうとアッシュさまのおそばにいます」


 メイドらしくおじぎをする。


「でも、セヴリーヌさまのお相手ばかりされて、さみしく感じたのは本当ですからね」


 すねた口調で彼女はそう言った。

 これはたぶん、本音だろう。

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