34-3
「やあ、アッシュくんにプリシラちゃんじゃないですか」
二階のラウンジへと続く階段から顔見知りの人が降りてきた。
メガネをかけた温厚そうな青年――フーガさんだ。
「こんにちは、フーガさん」
「ここで会うのは久しぶりですね。最近、アッシュさんの姿を見なかったので」
悪魔アズキエルの対処のために海の向こうからケルタスまで来てくれたフーガさん。
アズキエルを倒した今も、彼はケルタスに残ってスセリから不死の魔法について学んでいる。
「ここ数日、ずっとセヴリーヌの相手をしていましたから」
「セヴリーヌさんと? それは珍しいですね」
「いろいろあって、懐かれたんです」
俺は苦笑した。
それからフーガさんに、冒険者ギルドへ来た理由をかんたんに説明した。
「ベノムイーグルを倒したのですか! しかも『オーレオール』もなしに……」
「まあ、相手は弱っていましたから」
「それでもすごいです。あの魔物が凶暴であるのは知っていますから」
確かに、ベノムイーグルはかなりの強敵としてギルドにも登録されていた。
その証拠として討伐報酬がかなりの額だった。
通常の魔物討伐のときの五倍だ。
「さすが、スセリさんから見込まれただけはありますね」
それからフーガさんは「あっ、そうです」と、ポンと手を合わせた。
「今夜、夜空を見上げてみてください」
「夜空?」
「はい。面白いものが見られますよ」
「面白いとはなんでしょう。フーガさま」
プリシラが尋ねるとフーガさんは「秘密です」と答えた。
「夜になってからのお楽しみです」
「フーガさまがなにかされるのですか」
「はい。魔杖ガーデットはおぼえていますか?」
魔杖ガーデット。
生ける者から生命力を吸収し、魔力に変換する杖。
これで悪魔アズキエルの力を弱めたのだ。
「ガーデットには今、アズキエルから吸収した生命力が魔力となって貯まっています。これを解放しないと、生命力を吸収できないのです」
「ビンに溜まった水を捨てないといけないみたいに、ですか?」
「そのとおりです」
そういうわけでフーガさんは今夜、ガーデットに蓄えられた魔力を解放するという。
「ところでアッシュさんとプリシラさんは、どうして二人だけで街に?」
「えっと――」
「デートですか?」
「ええっ!?」
フーガさんにしては珍しく、そうちゃかしてくる。
スセリの影響だろうか……。
「はいっ。デートですっ」
ええっ!?
プリシラが力いっぱいうなずいた。
ですよね?
――と言いたげに俺の顔を上目遣いでうかがってくる。
「えっと、どうやらそうらしいです……」
「アッシュさんは大勢の女性に好かれているのですね」
嫌味ではなく、正直な感想をフーガさんは口にした。




