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34-2

「アッシュさま、とてもかっこよかったです」

「そ、そうか……?」


 プリシラにそう言われた俺は照れくさくなって後頭部をかく。

 続けてオーギュストさんが言う。


「あいつはベノムイーグルという名前の鳥型の魔物で、本来は複数人で戦うことが推奨される強敵なんだけど、アッシュくん一人で倒してしまうなんてね」

「墜落して弱っていたからですよ」

「それでも逃げずに一人で果敢に立ち向かった勇気に僕は敬意を表するよ」


 だが、今思い返せば無謀だったかもしれない。

 プリシラは武器を持っていなかったし、俺も自分の実力の大半を占める魔書『オーレオール』を持っていなかった。

 最適解としては、街の衛兵や他の冒険者が来るまでおとりに専念すべきだった。

 俺は心の中で反省した。


「そうえいばアッシュくん。最近、あまりギルドに顔を出さないね。他に仕事があるのかい?」


 そうオーギュストさんが尋ねてくる。


「仕事っていうか……」


 俺はセヴリーヌの遊び相手をしてると彼に話す。


「あのセヴリーヌちゃんに気に入られたのか。キミは本当に面白いね」

「あ、やっぱりオーギュストさんもセヴリーヌを知ってるんですね」

「直接会ったことはないけどね。彼女が不老というのは本当なのかい?」

「200年近く、歳をとっていないらしいです」


 そして精神も子供のままだと付け加えた。

 オーギュストさんは「なるほど」と真面目な面持ちになる。


「永遠に子供であり続けているわけか……。少しかわいそうでもあるね」

「大人になるって、やっぱり大事なことなんですか?」

「そりゃあそうさ。子供の頃は大人に守られ、そして自分が大人になれば守る側になる。義務や責任も伴う。そういう大人たちによって社会は成り立っているんだ」


 オーギュストさんは冒険者ギルドで働いているし、結婚して子供もいるという。

 働いて、家族をつくる。

 それが大人になるということだと彼は言った。


 セヴリーヌは永遠に大人になれない。

 オーギュストさんが言うように、それは悲しいことなのかもしれない。

 なにより悲しいのは、セヴリーヌ本人はそれを自覚できないということだった。


「わたしもいつか、大人になるんですね」

「そうだよ。プリシラちゃんは大人になったらアッシュくんと結婚するのかい?」

「ふえっ!?」


 プリシラがすっとんきょうな声を上げる。


「なんて、冗談だよ」


 オーギュストさんが笑った。

 プリシラのほっぺたは赤く染まっている。


「わ、わたしがアッシュさまと結婚だなんて……。わたしはあくまでアッシュさまのメイド。で、ですが、もし結婚できるのなら……て、てへへ……」


 うつむく彼女は妄想をつぶやきながら密かに笑みを浮かべていた。

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