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4-1

 今頃マリアは伯爵の屋敷で華やかな社交パーティーをしているのだろうな。

 俺は宿屋の公衆浴場にいた。

 広い湯船につかり、熱い湯を楽しむ。


 ランフォード家の屋敷にいたころはこんな広い風呂に入ったことはなかったから新鮮だ。

 気持ちがいい。

 運がいいのか他に客はおらず、貸し切り状態だ。


 そういえば、父上もよく自分の屋敷で社交パーティーを開いていたな。

 貴族の仕事といえば、領地経営と他の貴族との交友が主だから当然だが。

 だが、兄上たちと違って『出来損ない』だった俺は社交パーティーに参加させてもらえなかった。


 俺は別に構わなかった。


 貴族同士の交友なんて大して興味がなかったら。

 どうせランフォード家の跡を継ぐのは三人の兄上の誰かだ。

 俺は生涯、この古びた屋敷で隠されるように暮らしていくのだろう、とあの頃は思っていた。


 そんな俺に手を差し伸べてくれたのがマリアだった。

 マリアはパーティーを抜け出して、わざわざ俺の部屋まで来てくれた。

 そして二人で部屋を抜け出して中庭で星を眺めた。


 ――きれいな星ですわね。

 ――そうだな。

 ――そこは「あなたもきれいですよ」と言わなくてはいけませんわよ、アッシュ。


 そんな他愛のない会話をしていた。

 言葉にこそ出さなかったが、俺はうれしかった。

 自分を大切に思ってくれる人がいて。


「ふわぁ、おっきなお風呂です」


 そんな声が俺を感傷の世界から現実に引きずり戻した。

 浴場を覆う白い湯気に黒い人影が。

 その人影は、頭のてっぺんに三角の物体が二つ乗っかっている。


「他にお客さんはいないのですかね」


 ま、まさか……プリシラか!?

 人影が近づいてきて白い湯気の奥から現れたのはやはり彼女だった。

 全裸の。


 彼女は一糸まとわぬ姿。つまり裸の格好で俺の前の前に現れたのであった。

 まあ、風呂なので当たり前だが……。


「アッシュさま!?」


 あちらも俺の存在に気付いた。

 プリシラは慌てて両手で胸を隠す。


「も、申し訳ありません! すぐに出ます!」


 後ろを向いたプリシラであったが、足を滑らせた彼女は「ひゃんっ」と転んでしまった。

 びたんっ。

 と思いっきり。


「だいじょうぶか!?」


 湯船から出てプリシラを抱き上げる。

 目をぐるぐる回すプリシラの額は赤くなっていた。


「アッシュさまぁ……」


 俺は今、裸の少女を抱いている。

 頭がのぼせているのは、風呂の熱のせいだけではない。

 彼女の素肌はすべすべで、さわっていて心地よい。


 まだくびれの無い、なだらかな線を描く身体。

 かろうじて膨らんでいるのがわかる小さな胸。

 俺はだんだんと激しくなる動悸を抑えきれなかった。


 落ち着け俺! 相手は12歳の少女だぞ!

 これに欲情したら俺はプリシラの信頼を裏切ることになる……。

 落ち着け、落ち着くんだ俺……。


「いやー、でっかい風呂じゃのう!」


 そのときだった。新たな乱入者が現れたのは。

 素っ裸のスセリが大股で風呂に乗り込んできた。

 そして裸のプリシラを抱きかかえる俺と目が合う。


「……」

「……」


 お互い沈黙する。

 短い沈黙ののち、スセリが「のじゃじゃじゃじゃ」と笑った。


「なんじゃ、盛り合っておったのか! お楽しみのところを邪魔してすまんかったのう! のじゃじゃじゃじゃ」

「いや、違うから!」

「のーじゃじゃじゃじゃっ」


 誤解が解けぬままスセリは風呂から出ていってしまった。


「アッシュさまぁ」


 プリシラがそんなうわごとを言っていた。

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