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「さて、支度をするかの」
朝食を食べ終えると、スセリがそう口にした。
支度?
「なんの支度だ?」
俺の疑問にマリアが答えた。
「わたくしたち、これから街へ買い物に出かけますの」
プリシラ、スセリ、マリアは女子三人で買い物の約束をしていたとのことだった。
どうやら俺が寝ている間に話し合って決めたらしい。
「すみません、アッシュさま。今日は女の子三人でお買い物をするって決めていたのです」
「俺のことは気にせず、買い物を楽しんでくるといいさ」
「はいっ。えへへー」
プリシラが楽しそうなら俺はそれで構わない。
「プリシラに似合う服を選んであげますわ。あなたいつもメイド服ですもの」
「よろしくお願いします、マリアさまっ」
「アッシュはヴィットリオと皿洗いでもしておるのじゃな。のじゃじゃじゃっ」
そうして女子三人は買い物に出かけたのだった。
俺は『夏のクジラ亭』に一人残される。
他に宿泊客もいないから、完全にひとりぼっちだった。
静かだな。
これまで俺のそばにはプリシラやらスセリやら、誰かしらがいたから、やけに静かに感じる。
退屈だ……。
退屈に耐え切れなくなって厨房に顔を出す。
「ヴィットリオさん。皿洗い手伝いましょうか?」
「とっくに終わった」
食堂を出て廊下を歩いていると、床をモップがけしているクラリッサさんと会った。
「クラリッサさん。俺も掃除手伝いましょうか」
「もー。お客さんにそんなことさせられるわけないでしょ。気にせずくつろいでちょうだい」
くつろぐといっても、やることが無いんだよな……。
自分の部屋に戻って『オーレオール』でも読んでいるか。
そんなときだった。『夏のクジラ亭』に客が訪れたのは。
「こんにちは、クラリッサさま」
「あら、こんにちは。今日は早いのね」
客人は巨大なゴーレム、ウルカロスだった。
ウルカロスは主であるセヴリーヌのために毎日ここに訪れて、弁当を持って帰っている。
巨大な石人形であるウルカロスは宿の中に入れないため、玄関前に立っている。
「ほら、弁当だ」
ヴィットリオさんが弁当箱をウルカロスの手のひらの上に載せた。
「いつもありがとうございます。ヴットリオさま」
「お前の小さな主に伝えろ。たまには自分の足で食べにこいってな」
「かしこまりました。しかし、それは私が毎日言っているのです」
セヴリーヌ、相変わらず外には出ないんだな。
ウルカロスが俺たちに背を向ける。
「それでは、さようなら」
「ちょっと待ってくれ、ウルカロス」
「どうしました。アッシュさま」
「俺もいっしょに行くよ。セヴリーヌに会いにいく」
「ありがとうございます。ぜひそうしてください」
あの年齢で一人孤独なのはよくないだろうと思い、俺はセヴリーヌに会いにいくことにした。
あの年齢、といっても、実際は200歳近いのだが……。
まあ、精神の年齢は子供のままらしいからな。




