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食事をとりながら俺は、さっきまで見ていた夢の話をスセリにした。
以前と同じ、白い世界にいる、体毛を生やした精霊竜と、ツノ生えた少女。
そして現れた精霊剣。
「ほう、精霊剣がアッシュの前に現れたのじゃな」
スプーンを動かしてたスセリの手が、俺が『精霊剣』と口にしたところで止まった。
彼女の顔が真剣になる。
「して、おぬしは精霊剣を引き抜けたのか?」
「折れた」
そう答えると、俺を見つめていた目が大きく開かれた。
「折れたとな!?」
そして声を裏返らせた。
スセリは目をまんまるに見開いたまま、まじまじと俺の顔を見る。
俺は気まずくなって目をそらす。
それからスセリはいきなり大笑いした。
「のじゃじゃじゃじゃっ」
「ど、どうしたのです? スセリさま!?」
話を聞いていたプリシラとマリアは困惑していた。
むろん、俺もだ。
今のにスセリを笑わせる要素があったのか……?
散々笑ったあと、スセリは目の端に浮かんでいた涙をぬぐった。
「アッシュよ。おぬしはまことに面白いのじゃ」
「あのな。俺は真面目に話してるんだぞ」
「ワシだって真面目なのじゃ」
しかし、とスセリは続ける。
「精霊剣を抜いたわけでも、抜けなかったわけでもなく、折ってしまうとはな。実に愉快じゃ。いや、この『稀代の魔術師』の後継者じゃ。これくらはやってもらわんとな」
「いい加減教えてくれ。あの精霊竜とツノの生えた女の子、それと精霊剣について。精霊剣承ってなんなんだ?」
「そう急くでない」
コップを傾けてミルクを飲むスセリ。
「ワシらと奴らは同じ目的地へと続く運命線上を歩んでおるのじゃ。いずれわかるときがくる」
結局今回も変な言い回しではぐらかされてしまった。
「まあ、一つだけ言えることがあるとすれば」
「すれば?」
「精霊竜とその従者はワシらの敵じゃ」
敵!?
意外な言葉だった。
ツノの少女はともかく、あのやさしそうな精霊竜が俺たちの敵とは到底思えなかった。
「精霊竜がおぬしになにを語るかは知らんが、奴らの言葉を信用してはならんのじゃ」
「どうしてだ」
「言ったじゃろう。敵だからなのじゃ」
「だから、どうして精霊竜たちが俺たちの敵なんだ?」
「それもいずれわかるのじゃ」
らちが明かない。
スセリはすべてを知っているが、俺に説明する気はないらしい。少なくとも、今は。
もどかしいが、俺は諦めて皿の上のサンドイッチにありつくことにした。
「アッシュさまは伝説の勇者なのですか? スセリさま」
「まあ、似たようなもんじゃろう」
「すごいです! アッシュさま!」
勇者と言われても、これっぽっちも実感がわかなかった。




