32-3
その声で俺は夢からさめた。
ベッドから起き上がると、隣にプリシラが立っていた。
「おはようございます、アッシュさま」
にこりと微笑むプリシラ。
窓差す朝陽がまぶしく、目を細める。
プリシラが窓を開けると新鮮な風が吹き込み、カーテンのレースを揺らした。
小鳥たちのさえずりが聞こえてくる。
「めずらしいですね。アッシュさまがお寝坊だなんて」
「寝坊……?」
壁にかかっている時計に目をやる。
プリシラの言うとおり、ふだんならとっくに起きている時間だった。
「朝食の支度ができましたので起こしにきたのです」
「そうか……。ありがとう。それと、おはよう」
「はいっ。今日も一日、がんばりましょうねっ」
食堂に行くと、すでにスセリとマリアが席に着いていた。
「遅いのじゃ」
スセリが文句を口にする。
「アッシュったら、寝ぐせで髪がぼさぼさですわよ」
マリアが口元を手で隠して笑う。
するとプリシラが「ハッ。わたしとしたことが!」と慌てだす。
ポケットからくしを取り出す。
「アッシュさま、じっとしていてくださいね」
背伸びしたプリシラは、俺の髪をくしで整えだした。
彼女の言うとおり、じっと待つ。
プリシラはいろんな角度から俺の髪をくしでといでいる。
そのようすは真剣そのもの。
「できましたっ」
納得のいく出来になったのか、プリシラが達成感を表情に出して額の汗をぬぐった。
手鏡を俺に渡してくる。
鏡を覗くと、いつもの自分が映っていた。
「けなげじゃのう。いっそ嫁にでもなってしまえばいいのじゃ」
スセリがそう口にすると、今度はマリアが慌てて立ち上がった。
「目やにがついていますわよ」
プリシラに対抗しているのか、ハンカチで俺の目元を拭いだした。
「す、すまん。マリア」
「将来の妻ですもの。これくらいして当然ですわ」
「妻!?」
プリシラがぴょんと飛び上がる。
マリアは勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「安心してくださいまし、プリシラ。わたくしとアッシュが結婚した後も、あなたをアッシュのメイドとして雇い続けてさしあげますわ」
「はううう……。そ、それは……」
「一応言っておくが、俺はマリアと結婚するつもりはないからな」
俺はあえて平然とした態度で席に着いた。
テーブルに肘をつきながらスセリが俺を見てくる。
「なんじゃ。やはりワシと結婚したいのじゃな。恥ずかしがりやめ」
「スセリは俺の先祖だろ」
「のじゃじゃじゃじゃっ」
スセリをあしらうのにも慣れてしまった。
全員そろったところでヴィットリオさんが料理を運んできて、俺たち四人は朝食をとったのであった。




