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「いっそディアと結婚してしまえばよいのじゃ」
ケルタスへ帰る馬車の中でスセリがそう言った。
馬車の中にいるのは俺とスセリ、それとフーガさん。
プリシラとマリアは今頃、『夏のクジラ亭』で俺たちが帰るのを首を長くして待っていることだろう。
「他人事みたいに言うなよ」
「無責任な発言ではないのじゃ。大貴族ガルディア家との婚姻はランフォード家にとって利になることばかりじゃぞ。おぬしが父親と和解した今、それを止める者は誰もいまい」
確かにスセリの言うとおりだ。
アークトゥルスでも有数の貴族であるガルディア家との縁者になり、国での地位を高めるのはどの貴族も望んでいるのだろう。実際、ガルディア家に戻ってからディアは諸侯からいくつもの縁談を持ち掛けられたという。
ディアは今のところ、すべての縁談を断っているとのこと。
それは、彼女は俺との結婚を望んでいるから――かどうかはわからないが、先ほどのネックレスの件のように、彼女は隙あらば俺に求婚してくるのである。
「クローディアさんは身分が高いだけでなく、とてもお美しい方です。僕ならよろこんで彼女の想いを受け止めますけど」
フーガさんがそう言った。
「あっ、アッシュさんにはマリアさんがいるんでしたっけ。以前、婚約しているという話を聞いたような」
「それにプリシラもおるのじゃ」
「なんと……。アッシュさんは三人もの女性に好かれているのですね」
俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「実際のところ、アッシュはどう思っているのじゃ?」
『夏のクジラ亭』に帰ってきて自分の部屋に戻ると、俺の部屋までついてきたスセリがそう尋ねた。
「『どう?』 って?」
「プリシラ、マリア、ディア。誰を選ぶのじゃ」
俺がベッドに腰掛けるとスセリは俺の隣に密着して座った。
「そんな優柔不断な態度をとり続けていると、いつか三人とも愛想をつかされるのじゃ」
「俺は彼女たちに恋心は――」
「恋心は?」
「……」
俺はそこで口ごもってしまった。
「それともおぬし、もしや――」
「え……?」
「ワシを好いておるのか?」
スセリがニヤリとした。
そんなわけないだろ――と言おうとしたそのとき、スセリはいきなり服を脱ぎだした。
上着を脱いで、上半身裸になる。
あらわになる白い肌。先のとがった、なだらかな乳房。
未成熟な少女の裸を惜しげもなく俺の前に彼女はさらした。
あ然としているところに、スセリに突き飛ばされる。
壁に側頭部を打ちつけてベッドに倒れる。
スセリは俺の両肩を押えつけ、馬乗りになった。
少女の顔に似合わない、小悪魔のようななまめかしい笑みを浮かべつつ、舌なめずりする。
「スセリはご先祖さまだろうがッ」
「ワシはかまわんぞ。むろん、一度きりの関係でもあってもな」




