31-4
「みなさん!」
「アッシュ!」
「アッシュさまっ」
プリシラ、マリア、ディアが俺たちに駆け寄ってくる。
「いててて……」
「ん、アタシたち帰ってきたのか……」
セヴリーヌはしきりに尻をさすっていた。
スセリが辺りを見回して俺たち全員がいるのを確認する。
「全員、封印の世界から帰還できたようなのじゃ」
「みなさん、ご無事でなによりです」
「それで、アズキエルは倒しましたの?」
「ああ。倒したぞ」
「やりましたねっ、アッシュさま!」
ぴょんぴょん跳ねるプリシラ。
ディアは驚きを隠せないようすであんぐり口を開けている。
「先祖が封印することしかできなかった悪魔を、アッシュさんたちが倒してくださるだなんて……」
「意外と大したことなかったぞ」
セヴリーヌが平然とそう言ってのけた。
フーガさんが「あはは……」と苦笑いする。
「大変です! セオソフィーとフィロソフィーが!」
プリシラが二つの宝珠を指さす。
セオソフィーとフィロソフィー。
庭の台座に置かれていた蒼と紅の宝珠は、輝きを失って石と化していた。
「役目を失ってこうなったのじゃろうな」
スセリが二つのうち一つを手に取ると、半分に欠けてしまった。
家督継承の証は失われてしまった。
しかし、これで後世に責任を押し付ける必要がなくなった。
「よかったのですか? ディアさま」
「はい。これでよいのです」
こうして俺たちはガルディア家の災いを再び取り除いたのであった。
ケルタスに帰ってきて、『夏のクジラ亭』の食堂に俺とプリシラ、スセリ、マリア、そしてフーガさんはいる。セヴリーヌはケルタスに着くや否や、さっさと自分の家へと戻ってしまった。
「ありがとうございます、フーガさん。あなたのおかげでアズキエルを倒せました」
「いえ、僕の助力など微々たるものでした。おそらく、僕がいなくてもアッシュさんはアズキエルを倒していたでしょう。ですよね? スセリさん」
同意を求められたスセリは「うむ」と首を縦に振った。
「アッシュよ。おぬしの成長には目を見張るものがある。フーガが言っておったように、おぬしには英雄の素質があるのかもしれんのじゃ」
「わたくしの夫になるにふさわしいというわけですわね」
ふふっと微笑むマリア。
「英雄だなんて、大げさだな」
「封印されし悪魔を倒したのは事実なのじゃ」
悪魔アズキエル。本当に倒せたなんて、まだ信じられなかった。
あのときは無我夢中だった。
必死に戦って、戦いが終わって冷静になると、すでに封印されし世界の外にいた。
「今回の件は僕から冒険者ギルドに報告します。冒険者としての信頼もこれで――」
「いや、それはよしたほうがよい。ガルディア家は自分の一族が悪魔を召喚し、封じていた事実をおおやけにはしたくないじゃろうからな」
ディアなら冒険者ギルドに報告するのをすすめてくれるだろうが、ガルディア家のために俺たちは冒険者ギルドに報告をしないことにした。
だからといって、骨折り損で終わったわけではない。




