31-2
フーガさんが魔杖ガーデットをかかげる。
……しかし、先端の宝石は光りだそうとしなかった。
「しまった……」
「どうしたのじゃ、フーガ」
「生命力を吸収する許容量に達してしまいました」
「これ以上吸い取れないってことですか!?」
「そういうことになりますね……」
「だーっ! この役立たずめーっ」
バキンッ。
次は右足の鎖がちぎれる。
まずい。このままでは悪魔アズキエルの封印が完全に解かれてしまう。
アズキエルの目が光る。
すかさずスセリが魔法障壁を発生させる。
障壁はアズキエルの目から発射された光線を相殺した。
バキンッ。バキンッ。
そしてついに左半身の拘束も破られ、アズキエルは自由を手に入れた。
四つ足で床に這いつくばる、ヒツジ頭の悪魔。
理性無き、狂気を帯びた両眼。
口からは唾液がこぼれている。
アズキエルが右腕を振りかざす。
スセリが再び障壁を発生させて、振り下ろされた右腕の一撃を受け止めた。
「アッシュ! おぬしが『オーレオール』でアズキエルを討つのじゃ!」
「ここは僕たちが食い止めます!」
スセリ、フーガ、セヴリーヌ。三人が力を合わせて魔法障壁を展開する。
アズキエルは右腕と左腕を交互に振り回し、障壁を幾度も叩く。
三人が足止めをしてくれている間に、俺は魔力を集中させる。
心を研ぎ澄ます。
魔書『オーレオール』から魔力が身体に流れ込んでくる。
とてつもない量の魔力をどうにか制御し、一つにまとめる。
魔力は球状に凝縮され、俺の右手に宿った。
「スセリ! 障壁を解いてくれ!」
「承知したのじゃ!」
障壁が消滅する。
俺たちとアズキエルをさえぎるものはなくなった。
俺は右手に宿った魔力のかたまりを目の前の悪魔めがけて投げ放った。
魔力のかたまりがアズキエルの頭部に直撃する。
刹那、大規模な爆発が生じ、部屋もろともアズキエルを粉砕した。
「逃げるのじゃ!」
隣の広間に逃げ込む。
アズキエルを封じていた部屋は天井が崩落し、アズキエルは瓦礫の下敷きとなった。
「た、倒したのでしょうか……」
「頭を吹っ飛ばしたんだ。さすがに今度こそ死んだだろ」
瓦礫の山を遠くから見守る俺たち。
動く者の気配は無い。
……と思いきや、瓦礫の山が崩れ、中からアズキエルが這い出てきた。
「う、ウソだろ!?」
「これでもまだ生きてるなんて……」
アズキエルは頭部を失っても首から下だけで動いていた。
そのせいで、余計に不気味さが増している。
四つ足で這って、広間へと入り込んでくる。
スセリとセヴリーヌが魔法の矢を放つ。
肩や首の断面に矢が刺さるも、アズキエルは一瞬のけぞるだけで動くのを止めない。
俺も魔法を放とうとしたが、さっきの魔法で魔力を使い果たしたのか『オーレオール』から魔力が流れ込んでくることはなかった。




