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30-6

 本来ならセヴリーヌ自身に出させるべきだが、彼女からすれば魔法で貨幣を偽造するのなんて造作もないし、とがめる良心などこれっぽっちも持ち合わせていないからな……。


「恩には報いねばなりません。ですよね、アッシュさま」

「プリシラの言うとおりだ」

「だーっ!」


 セヴリーヌが両腕をばたつかせてプリシラの手を振りほどく。


「わかったよ。手伝えばいいんだろ。この最強まじゅちゅし――」


 あ、噛んだ。


「さいきょうまじゅつし」


 ゆっくり言い直す。


「――の、セヴリーヌさまが瞬殺してやる」

「お力添え感謝いたします。セヴリーヌさん」


 性格に難はあれど、実力は確かだ。セヴリーヌの助力があれば悪魔アズキエルとも有利に戦えるだろう。


「それにしても、夢みたいです。不老の魔法を完成させた二人の『稀代の魔術師』と会える日が来るだなんて」


 フーガさんは感激している。

 俺は二人のどうしようもない性格を知っているから、大した感動はないんだがな。

 フーガさんも二人に接しているうちに、幻滅するのかもしれないな……。

 セヴリーヌは「えっへん」と胸を張っている。


「アタシは天才まじゅちゅ――魔術師なんだ。もっともっと敬うんだぞ」

「不老の魔法を完成させたお話、今度ぜひとも聞かせてください」

「いいぞ。えへへっ」


 フーガさんがいい感じにおだててくれたおかげでセヴリーヌはご機嫌だった。


「そんじゃ、門を開くぞ」


 セヴリーヌが中庭の台座にセオソフィーとフィロソフィー、二つの宝珠を置く。

 それから目を閉じ、集中する。

 すると彼女の身体から青白い魔力の光がこぼれ出て、二つの宝珠へと吸い込まれていった。

 そして二つの宝珠が共鳴し、空間が歪み、白と黒が混じる異界への『門』が開いた。


「この先に、悪魔アズキエルが……」

「覚悟はできたか? フーガよ」

「はっ、はい! アズキエルを……た、倒しましょう!」


 フーガさんは目の前の光景に恐れおののいていたが、スセリに問われて決意を固め、声を震わせながらも首を縦に振った。

 ディアが俺の手を取る。


「無事を祈ります。アッシュさん」

「俺たちに任せてくれ」


 彼女の不安を少しでも和らげようと、俺は格好つけてキザに笑ってみせた。


「プリシラとマリアはディアと共にここに残ってくれ」

「承知しました」


 プリシラが素直にうなずく。

 対してマリアは予想通り不服そうにしている。


「わたくしとプリシラは力不足とおっしゃりたいの? アッシュは」

「これから戦うのはこれまでの魔物とは違うんだ。わかってくれ」

「わかっていますわよ。ですけれど、わたくしだってアッシュの役に立てますわ」

「その気概だけ受け取らせてもらう」


 あの悪魔に普通の人間では太刀打ちできまい。それこそ『稀代の魔術師』か、それに匹敵する実力者でないと。

 マリアもそれは理解していた。

 していたが、納得できなかったのだ。

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