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本来ならセヴリーヌ自身に出させるべきだが、彼女からすれば魔法で貨幣を偽造するのなんて造作もないし、とがめる良心などこれっぽっちも持ち合わせていないからな……。
「恩には報いねばなりません。ですよね、アッシュさま」
「プリシラの言うとおりだ」
「だーっ!」
セヴリーヌが両腕をばたつかせてプリシラの手を振りほどく。
「わかったよ。手伝えばいいんだろ。この最強まじゅちゅし――」
あ、噛んだ。
「さいきょうまじゅつし」
ゆっくり言い直す。
「――の、セヴリーヌさまが瞬殺してやる」
「お力添え感謝いたします。セヴリーヌさん」
性格に難はあれど、実力は確かだ。セヴリーヌの助力があれば悪魔アズキエルとも有利に戦えるだろう。
「それにしても、夢みたいです。不老の魔法を完成させた二人の『稀代の魔術師』と会える日が来るだなんて」
フーガさんは感激している。
俺は二人のどうしようもない性格を知っているから、大した感動はないんだがな。
フーガさんも二人に接しているうちに、幻滅するのかもしれないな……。
セヴリーヌは「えっへん」と胸を張っている。
「アタシは天才まじゅちゅ――魔術師なんだ。もっともっと敬うんだぞ」
「不老の魔法を完成させたお話、今度ぜひとも聞かせてください」
「いいぞ。えへへっ」
フーガさんがいい感じにおだててくれたおかげでセヴリーヌはご機嫌だった。
「そんじゃ、門を開くぞ」
セヴリーヌが中庭の台座にセオソフィーとフィロソフィー、二つの宝珠を置く。
それから目を閉じ、集中する。
すると彼女の身体から青白い魔力の光がこぼれ出て、二つの宝珠へと吸い込まれていった。
そして二つの宝珠が共鳴し、空間が歪み、白と黒が混じる異界への『門』が開いた。
「この先に、悪魔アズキエルが……」
「覚悟はできたか? フーガよ」
「はっ、はい! アズキエルを……た、倒しましょう!」
フーガさんは目の前の光景に恐れおののいていたが、スセリに問われて決意を固め、声を震わせながらも首を縦に振った。
ディアが俺の手を取る。
「無事を祈ります。アッシュさん」
「俺たちに任せてくれ」
彼女の不安を少しでも和らげようと、俺は格好つけてキザに笑ってみせた。
「プリシラとマリアはディアと共にここに残ってくれ」
「承知しました」
プリシラが素直にうなずく。
対してマリアは予想通り不服そうにしている。
「わたくしとプリシラは力不足とおっしゃりたいの? アッシュは」
「これから戦うのはこれまでの魔物とは違うんだ。わかってくれ」
「わかっていますわよ。ですけれど、わたくしだってアッシュの役に立てますわ」
「その気概だけ受け取らせてもらう」
あの悪魔に普通の人間では太刀打ちできまい。それこそ『稀代の魔術師』か、それに匹敵する実力者でないと。
マリアもそれは理解していた。
していたが、納得できなかったのだ。




