30-4
魔杖ガーデット。
それがフーガさんの持つ杖の名前だった。
スセリが「おや」と首をかしげる。
「それは魔法道具なのじゃな?」
「はい。ガーデットはフーガ魔法研究所が作り出した至高の魔法道具です」
「それにしては、そのガーデットなる杖からは魔力を感じんのじゃが」
いぶかるスセリにフーガさんは「そのとおりです」と自信たっぷりに答えた。
「魔杖ガーデットは魔力を宿していない魔法道具なのです」
「ど、どういうことですの?」
マリアもふしぎそうにしている。
魔力を宿していない魔法道具……。
そんな矛盾したものが存在するのか……。
「この杖は他者の生命力を奪い、魔力に変換する力を持っているのです」
生命力を奪い、魔力に変換する……。
そうか。だからガーデット自体の魔力はからっぽなんだな。
「い、生きる力をもらっちゃうわけですか? こ、こわいですね……」
はわわわ、と身震いするプリシラ。
マリアとスセリの顔もこわばっている。
俺もたぶん、同じような表情をしているだろう。
フーガさんはおっかない力を持つその杖を平然と持っていた。
「道具は使い方次第です。剣が命を生かすためと奪うための両方の使い道があるように、本質とは常に表裏一体なのです」
とにかく、フーガさんがアズキエルを倒すための切り札を持っているのはわかった。
「魔杖ガーデットでアズキエルの生命力を奪えば、僕たちでもじゅうぶんに勝ち目はあると思います。どうでしょうか」
「で、でも、あんな悪魔と戦うんですよね……」
プリシラの頭の耳がしおれている。
マリアもあまり気乗りしていない。
スセリも「ふむ……」と眉間にしわを寄せて考え込んでいた。
俺たちはあのおぞましい悪魔を目の当たりにしたから、恐ろしさがわかるのだ。
普通の人間では到底倒すことなどできない。
フーガさんの切り札を用いたとしても、果たして勝機はあるのか……。
「アッシュ。ワシはおぬしに判断を任せるのじゃ」
スセリがそう言う。
それに続いてプリシラとマリアも「わたしもアッシュさまに従います」「わたくしもそうしますわ」と言った。
「アッシュさまの出された答えなら、みんな納得してくれますよっ」
「信頼されていますね。アッシュさんは」
フーガさんはどこかうらやましそうな口調だった。
俺は照れくさくなって頭をかいた。
……さて、どちらかを選ばなくてはいけない。
フーガさんの魔法研究施設で封印するか。
あるいは俺たちで悪魔アズキエルを倒すか。
セオソフィーをフーガさんに託して封印するのなら危険を伴わずに済む。
しかし、先ほどフーガさんが言っていたように、『稀代の魔術師』とその後継者、そして賢人フーガの子孫が揃う機会はこの先あるかわからない。大きな危険をおかすことになるが、俺たちなら悪魔アズキエルを倒せる可能性があるのだ。




