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本人には申し訳ないが、セオソフィーとフィロソフィーの封印が本当にできるのか、一抹の不安がよぎる。
「さて、本題に入ろうかの。アッシュ。宝珠を出すのじゃ」
スセリに促された俺は宝珠を出した。
蒼き宝珠セオソフィー。
家督継承者の証として代々受け継がれてきたガルディア家の家宝。
対となる紅き宝珠フィロソフィーはガルディア家にある。
二つの宝珠には邪悪な悪魔が封印されている。
「これがセオソフィー……」
セオソフィーを手にするフーガさん。
眼鏡の位置をしきりに直しながらまじまじと見る。
セオソフィーは中心から光を発しており、生きているかのように脈打っている。
以前、ディアから手紙が届き、封印された悪魔が何者なのか判明した。
悪魔の名はアズキエル。
ガルディア家初代当主が兵として使役するために召喚したのだという。
しかし、アズキエルの力は人間の手には余るものだった。
召喚したアズキエルは暴走し、パスティアの地を破壊し尽くそうとした。
召喚術の対となる魔法の送還術も通じず、かといって倒すこともかなわず、奥の手として二つの宝珠に分離させて封印を施した。
それがガルディア家に伝わっている、宝珠にまつわる話だった。
「この宝珠の中の世界に悪魔アズキエルが……」
「セオソフィーを封印する許可は当主と次期当主から得てる」
「承知しました」
フーガさんはセオソフィーを手にしながらこう言った。
「僕が提案する手段は二つあります」
「二つ、ですか?」
「一つはセオソフィーを僕の研究施設で預かること。『フーガ魔法研究所』では、王国から禁忌指定された魔法道具をいくつも預かり、強力な封印を施しています。そこにセオソフィーを加えるのです」
「もう一つは?」
「もう一つは――封印ではなく、悪魔アズキエルを倒すことです」
俺たちはそろって目をむいた。
それに対してフーガさんは冷静に言葉を続ける。
「『稀代の魔術師』とその後継者。そして賢人フーガの子孫である僕。これほどの人間が揃う機会はもう二度とないかもしれません。僕たちが力を合わせれば、アズキエルを倒せる可能性はじゅうぶんにあります」
しん、と静まり返る。
「あの、失礼ですがフーガさん。フーガさんは戦いの経験はおありなのですか?」
マリアがそう質問する。
たぶん、俺たち全員同じ疑問を抱いている。
フーガさんはどう見ても戦いに慣れているようには見えない。
そんな俺たちの不安を払しょくするかのように、彼はにこりと笑った。
「こう見えて僕、今まで多くの魔物を討伐してきたんですよ」
「ほ、本当ですの……?」
「まあ、そんなふうには見えないでしょうけどね」
半信半疑な俺たちを見てフーガさんは苦笑した。
こほん、と咳払いするフーガさん。
「とにかく、アッシュさんたちの足を引っ張らないのはお約束します」
彼が片手を前に出す。
すると、彼の目の前に魔法円が浮かび上がり、そこから杖が出現した。
先端に赤い宝石のはめられた杖をフーガさんが握る。
「この『魔杖ガーデット』がある限り」




