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30-2

 それにしても、どうしてフーガさんがここに……。

 賢人フーガの子孫は海を隔てたベルクス地方に住んでいるはず。

 俺の疑問を察したフーガさんはこう言った。


「『稀代の魔術師』が長き眠りからよみがえったと知って、いてもたってもいられなくなって船でアークトゥルスまで渡ってきたんです」

「すまんのう。わざわざ出向いてきてくれて」

「いえ、これくらいどうってことなりません」


 本人は平然と言っているが、ベルクス地方からアークトゥルス地方まで、船だと10日以上はかかる。結構な長旅だ。

 スセリに会うために、はるばるここまで来たのか。

 すごい行動力だ。


「人々の悲願である不老の魔法をついに完成させたのですね。スセリさんは」

「厳密には不老ではないのじゃがな」

「それでも、200年もの昔の人間が現代で目覚めるとはすごいことです。詳しい話をお聞かせ願いたいのですが……」

「かまわんぞ。おぬしが理解できるかは知らんが」

「やったぁ!」


 フーガさんが歓喜の声を上げると、またラウンジの注目が集まった。

 フーガさんは「す、すみません……」と赤面してうつむく。


「不老の魔法、ついに知ることができるなんて」


 しかし、それでも興奮を隠しきれていなかった。


「その代わり、手紙で書いた問題をおぬしに解決してもらうのじゃ」

「セオソフィーとフィロソフィーの封印ですね」


 真剣な面持ちになるフーガさん。


「ここまで来たということは、当然、封印の手立てはあるのじゃな?」

「はい。もちろんです」

「なあ、その話の続きは『夏のクジラ亭』でしないか?」

「そうじゃな」



 そういうわけで俺とスセリはフーガさんを連れて『夏のクジラ亭』に帰ってきた。

 食堂のテーブルを借りて、そこで話をすることにした。

 俺とスセリとフーガさんに加え、プリシラとマリアも席に着いた。


「フーガさんが来るとあらかじめ知っていれば、ガルディア家の次期当主の同席も事前に頼めたんですが……」

「あれ? 届きませんでしたか? 僕の手紙」

「来ておらんのじゃ」

「おかしいな……」


 そのとき、クラリッサさんが一通の手紙を持ってやってきた。


「スセリちゃんに手紙よ」

「あっ、それが僕の手紙です!」


 なるほど。手紙より先に本人が来てしまったわけか。

 フーガさんは「僕ってばまた失敗しちゃいました」と恥ずかしげに頭をかいた。


「遠くの人間とやりとりするとままあることなのじゃ」

「やっぱり手紙を出したその日の船に乗ったのがまずかったのかなぁ」


 そ、それは手紙を追い越すのも当然だろう……。

 俺の中でフーガさんの印象が『おっちょこちょいな人』で確定した瞬間だった。

 スセリは呆れて肩をすくめていたし、プリシラとマリアは苦笑いしていた。

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