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30-1

 ある日のことだった。

 依頼を受けに冒険者ギルドに訪れると、受付嬢が「スセリさん」と、俺とスセリのところへやってきた。


「どうしたのじゃ?」

「スセリさんにお客さまがお見えになっていますよ」

「ワシに?」


 珍しいな、スセリに客が来るなんて。

 俺たちの活躍を耳にして直接依頼を頼んでくる依頼人はこれまでいたが、スセリ一人を指名してくる人となると初めてだ。


「して、その客とやらはどこなのじゃ」

「二階のラウンジでお待ちになっています」


 ギルドの二階へと上がり、ラウンジに入る。

 二階全体を使った広いラウンジでは冒険者や依頼人たちが席に着いて談話している。冒険の計画を練っていたり、依頼の相談をしていたり……。

 大きな窓からはケルタスの賑やかな街並みが見下ろせる。


 俺とスセリは受付嬢に連れられて窓際の席まで案内された。

 その席には眼鏡をかけた学者ふうの穏やかそうな青年が座っていた。

 コーヒーを飲んでいた彼は俺たちに気付いて顔を上げる。


「フーガさん。スセリさんがいらっしゃいましたよ」


 すると、フーガと呼ばれた青年は「えっ?」目をしばたたかせた。

 役目を果たした受付嬢が「それでは、ごゆっくりと」と去っていく。

 フーガさんはなおも俺たちを見ながら目をぱちぱちさせている。


「えっと、スセリさんは……」

「スセリはワシじゃ」

「ええっ!?」


 すっとんきょうな声を上げるフーガさん。

 ラウンジにいる人たちの注目が一瞬だけ俺たちに集まる。

 スセリがジトっとした目つきになる。


「なんじゃ、その驚きようは」

「い、いえ、僕が想像していたよりずいぶんお若いというか幼いというか……。あっ、もしかして、名前を受け継いだ子孫の方でしょうか?」

「ワシは紛れもないスセリ本人なのじゃ」

「……」


 フーガさんはなんと返事をしようか考えあぐねているようす。

 だからか、スセリはこう言ったのであった。


「手紙に書いたじゃろう。ワシは不老の身になったのじゃと」

「そ、そうでした……」


 戸惑いをごまかすようにズレた眼鏡を直すフーガさん。


「しかしまさか、そんな幼い少女の姿だとは思いませんでした……」

「おぬしも、『フーガ』という名を受け継いだにしては頼りなさそうな風貌じゃのう」

「ははは……。よく言われます」


 フーガさんはそう自嘲した。

 席を立ったフーガさんは俺たちに自己紹介した。


「申し遅れました。僕はフーガと言います。賢人フーガの名を継いだ子孫です」


 やはりそうだったか。

 現代魔法の祖、賢人フーガ。

 その子孫が彼だった。


「俺はランフォード家のアッシュといいます」

「ああ、あなたがアッシュさんだったんですね。あなたのことはスセリさんの手紙で知っています。魔書『オーレオール』の継承者だとか」

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