29-7
そして俺たちは『夏のクジラ亭』に帰るため、ネネの家を後にした。
「ばいばーい」
「また遊んでねーっ」
ネネの妹二人が手を振って見送ってくれた。
微笑ましい。
プリシラとマリアは二人に手を振り返しながら歩いていた。
「ちょっと待ってくれ」
今日はこれでお別れ――かと思いきや、ネネが小走りに俺たちところまでやってきた。
どうしたのだろう。
俺たちはふしぎそうにネネを見る。
「なあ、アッシュ。お前は残ってくれないか?」
「どうかしたのか?」
「……お前と、話がしたいんだ」
俺は三人に目配せする。
「では、わたくしたちは先に帰りますわね」
「おやすみなさい、ネネさま」
「帰ってとっとと寝るかのう」
プリシラとマリアとスセリの姿が夜の闇の中に消える。
「悪いな、アッシュ」
「いいさ。それで、話ってなんだ?」
「まあ、とりあえず家に入ろう」
姉が俺を連れて戻ってきたので妹二人はきょとんとしていた。そしてすぐに「アッシュお兄ちゃんだーっ」とはしゃぎだした。
だが、もう子供は寝る時刻。
ネネは妹二人を寝かせた。最初、妹たちは俺と遊びたくて寝るのを嫌がっていた。しかし結局、眠気に負けてしまい、ベッドに入ったのであった。
妹たちはすぐにすやすやと寝息を立てて眠った。
「かわいいな」
「ああ。アタシの宝物だ」
あどけない妹たちを見つめるネネは優しげに微笑んでいた。
「外を歩かないか?」
ネネにそう誘われて、外に出る。
青白い月明かりに照らされた貧困層居住区。
他の地区と比べて、ここは背の低い住居ばかりが立ち並んでいる。道も整備されておらず、地面がむき出しになっている。まるでここだけ都市の発展に置いていかれたようであった。
俺とネネは並んで歩く。
どこかへ連れていくつもりなのだろうか。
先ほどからネネは黙りこくっているからわからない。
「なあ、ネネ。俺に話って?」
もう一度同じ質問をした。
するとネネは立ち止まり、こう答えた。
「実を言うと……アタシもわからないんだ」
ネネは困った表情をしながら頭をかいた。
俺はきょとんとする。
「わからないけど、アッシュともっと話したい、って思ったんだ。変だよな……?」
俺から目をそらすネネ。
俺は彼女に笑いかけた。
「そんなことないさ。俺もネネと話したかったからな」
「そうなのか!?」
勢いよく振り向いてくるネネ。
「アタシたち、気が合うなっ」
一転して彼女は上機嫌になった。
白い歯を見せて屈託なくネネは笑った。
それから俺たちは夜の街を歩きながら他愛のない話をした。
ランフォード家にいたころの暮らし、ネネの日常、不老の少女セヴリーヌについて、クロノス・ガルディアとの戦いなどなど、とりとめなく。
雑談しながらネネの家まで戻ってくると、今度こそ俺たちは別れた。
「おやすみ、ネネ」
「ああ、おやすみ、アッシュ」
それからネネはしおらしい表情になって、こう言った。
「アッシュ。これからもアタシのそばにいてくれよ」
そう、お願いされた。
俺は首を縦に振った。
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