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29-6

 負けず嫌いなネネは負けたまま終わるのが嫌だったようで、その日は日没まで彼女との訓練に付き合ったのであった。


「さすがに今日はもう終わりにするか」


 ネネがそう言うころには俺はもうくたくただった。

 戦績は俺の勝ち越し。

 というか、ほとんど俺の勝利。

 さっさと負けてネネを満足させるという手もあったが、万が一手を抜いているのを見抜かれると彼女の信頼を失いかねないので、全力で彼女に応じたのである。


「アッシュ。どうしてお前はこんな強いんだ?」

「それはアッシュさまだからですっ」


 プリシラが誇らしげに答えたが、答えになっていなかった。


「戦いには自信があったのに、まさか手も足も出ないなんて」

「俺もそれなりに戦いは経験してきたからな」


 ネネが俺と同じ年齢なら、こうも勝てなかったかもしれない。

 本人に言うと怒られるから決して口にしないが、ネネはまだ13歳の子供だ。

 いくら素早さが上回っていても、単純な力比べとなれば俺が圧倒的に有利。

 実際、ネネに勝てたのは腕力で俺に分があったからだ。


「……早く大人になりたい」


 ネネが歯がゆそうにつぶやく。

 自分が子供ゆえに未熟なのは自覚しているらしかった。



 その日はネネの家で夕食を振舞われた。

 ネネの家はとても狭く、俺とプリシラとマリアとスセリの四人が入って、ネネと妹二人の合計七人になると、かなり窮屈だった。


「あら、おいしいですわ」


 ネネの料理を口にしたマリアがそう言った。

 ネネが「ふふん」と胸をそらす。


「意外だろ?」

「い、いえ、そういうつもりでは……」

「見てくれが悪いのは自覚してるから別にいいぞ」


 マリアの言うとおり、ネネの料理は地味な見た目だったが、味はとてもおいしかった。

 さすがにヴィットリオさんには及ばないが、それは単に相手が悪いだけ。他人に振舞うには十分の出来だった。

 エプロン姿も似合っている。


「お姉ちゃんのお料理、とってもおいしいでしょー?」

「でしょー?」


 妹たち二人も自慢げだった。

 冒険者になる運命ではなかったら、平穏な日常を送っていたんだろうな……。


 食事の後はみんなでカードゲームに興じた。

 同じ絵柄のカードを揃えて捨て、手札を先になくした人が勝ち――という単純なルールだったが、これが結構楽しく、俺たちはわいわいおしゃべりしながら遊んだ。とりわけネネは真剣で、キッと目を細めて隣の俺の手札からカードを引き抜いていた。

 が、しかし……。


「ワシの勝ちじゃな」

「ま、またお前が一番に上がったのか!?」

「のじゃじゃじゃじゃっ」


 ゲームはスセリの全勝だった。

 絶対、魔法で透視しているな……。

 大人げないぞ、スセリ。

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