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それからも俺とプリシラ、スセリとマリアの四人で、冒険者ギルドに集まってくる依頼を日々こなしていった。
遺跡の探索と魔物討伐に関してはネネとも組んで依頼を請け負っている。
地図描きが二人に増えたおかげでプリシラの負担が減ったし、魔物や機械人形との戦闘では心強い戦力となってくれた。
そんなある日のこと。
俺たちは東区の下流階級層居住区にいた。
カカシがぽつんと立っている広場。
俺とネネはその中心で、互いに武器を持って対峙している。
少し離れた場所でプリシラ、スセリ、マリア、それからネネの妹二人が俺たちを見守っている。
「手加減するなよ」
「ネネ相手にそれはしないさ」
俺とネネは戦いの稽古をしているところだった。
一対一の真っ向勝負。
互いの武器は木製のロッドで、先端には威力を和らげるための綿が厚く巻かれている。とはいえ、これで叩かれたらそうとう痛いだろう。
離れた間合いでじっと機をうかがう俺とネネ。
固唾をのむプリシラたち。
あくびをするスセリ。
「アタシからいくぞ!」
我慢しきれなくなったネネから攻撃を仕掛けてきた。
低姿勢から、一直線に駆けて間合いを瞬時に詰めてくる。
ロッドを下から振り上げる。
俺はそれをロッドで受け止める。
木と木がぶつかり合う乾いた音がする。
そのまま二人ともロッドを押して競り合う。
「がんばってください、アッシュさまっ」
「お姉ちゃんがんばってー!」
声援が届く。
力比べでは俺が勝ち、ネネを大きくのけぞらせた。
隙をさらした彼女をロッドで突く。
しかし、ネネは崩した姿勢のまま無理やり後方に下がり、俺の攻撃を回避した。
ネネが飛び上がる。
すさまじい跳躍で俺の真上を取る。
そして落下の勢いに任せて垂直に攻撃してきた。
受け止めるか?
いや、これはさすがに重い。
俺は一瞬の判断で回避行動をとった。
ネネの落下攻撃を真横に飛びのいて回避する。
着地したネネはすぐさま次の攻撃を繰り出してくる。
振り向きざまの横払い。
今だ!
俺は全神経を集中させ、ネネの横に払われたロッドを自分のロッドで叩いた。
ネネのロッドが手から落ちる。
「しまった!」
ネネは慌ててロッドを拾うとする。
俺は無防備になった彼女にロッドの先端を向けた。
ロッドを再び手にしたネネだったが、武器の切っ先を向けられて敗北を認めた。
「俺の勝ちだ」
「……くっ。強いな、アッシュは」
素直に敗北を認めたものの、ネネはかなり悔しげだった。
プリシラとマリアが俺のもとへ駆け寄ってくる。
「やりましたね、アッシュさまっ」
「見事でしたわ」
遅れてスセリが歩いてくる。
それをネネの妹たちが追い越して姉にすがりついた。
「ネネもよい身のこなしだったのじゃ」
「次はぜったいに勝つぞ」
俺たちはこうやってときどき戦いの訓練をしているのであった。
ちなみに、一番強いのはプリシラである。
俺と稽古をするときはあからさまに手加減してくれるが。




