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今回の件がだいぶこたえたらしい。ネネはすっかり落ち込んでいた。
妹たち二人は心配そうに姉を見つめている。
どうにかネネを励ましてあげたい。
プリシラとマリアもそう思っているらしく俺を見ている。
俺はネネにこう言った。
「ネネはいっしょうけんめい戦った。それにネネは塔の最上階までの地図を描いてくれたじゃないか。冒険者ギルド――オーギュストさんもネネの地図の出来を褒めてたぞ。熟練の冒険者じゃないとあれほどていねいな地図は描けない、ってな」
プリシラとマリア、スセリが「そうですよっ」「そうですわ」「そうじゃぞ」と同意する。
「ははっ、ありがとな」
俺たちの気持ちが伝わったのか、ネネが控えめな笑みを見せてくれた。
妹二人も「お姉ちゃんすごーいっ」とはしゃいでいた。
ネネがベッドから出て立ち上がる。
「もう立てるのか?」
「ああ。あんな傷を受けたのがウソみたいに元気なんだ。ベッドに入ってたのは医者にしばらく安静にしてろって言われたからだ」
「アッシュさまの治癒魔法のおかげですねっ」
「その治癒魔法っていうのは難しい魔法なのか?」
魔法に関してまったく知識のないネネは何気なくそんな質問をしてきた。
「治癒魔法は熟達の魔術のみが扱える奥義の中の奥義。しかも致命傷を完治させるほどのものを使える人間となれば、世界中をさがしてもワシとアッシュ、それとセヴリーヌという魔術師くらいじゃろう」
「お、お前たちってそんなすごいヤツだったのか!?」
仰天するネネ。
期待通りの反応だったようで、スセリは「えっへん、なのじゃ」と偉そうに胸をそらしていた。
「アッシュさまはすごいお方なのです」
「わたくしと結婚するにふさわしい人間なのですわ、アッシュは」
ついでとばかりにプリシラとマリアまで得意げになっていた。
ネネはまじまじと俺とスセリを交互に見る。
「アッシュたちがそんなすごい魔術師だったなんて知らなかった……。この対価を払わなくちゃならないが……すまん。アタシは貧困層居住区の人間だ。渡せるものなんて持っていない」
「対価はいらないさ」
「お前ならそう言うだろうと思ったけど……、命を救ってもらった相手に礼の一つもできないなんて……」
「そうだな……」
俺は少し考えてからこう言った。
「なら、『夏のクジラ亭』に食事をしにきてくれよ」
「『夏のクジラ亭』……?」
「俺たちが拠点にしている宿屋さ。そこではおいしい料理も食べられるんだ。ネネにもぜひ、客の一人になってもらいたい」
「そんなのでいいのか?」
「あんなおいしい料理を俺たちが独占しているなんてもったいないからな。お店のために少しでも客を増やしたいんだ」




