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「アッシュさま。お願いがあるのですが、よろしいでしょうか……?」
プリシラが上目づかいでおずおずと尋ねてくる。
「なんだ? 俺にできることなら手を貸すぞ」
「実は食器棚のカギをなくしてしまい、困っているのです」
食器棚を指さすプリシラ。
「アッシュさまの召喚術でカギを呼び出せないでしょうか?」
「カギか……」
試したことがないからなんとも言えない。
カギも金属だから召喚できるのだろうか。
そもそも俺が金属を召喚するのは、召喚獣を呼び出すのに失敗した結果だ。意図して金属を召喚したことはないから成功するかどうかわからない。
「やるだけやってみるよ」
俺は目を閉じ、精神を研ぎ澄ます。
頭の中でカギを思い描く。
ぼんやりしていたその輪郭がはっきりした瞬間、俺は叫んだ。
「来たれ!」
空中に小さな魔法円が浮かび上がる。
そこから細長い金属の物体が出現し、俺の手のひらの上にぽとりと落ちた。
「カギですっ」
カギの召喚に成功した。
まさか本当に召喚できるとは。
「さすがです。アッシュさまっ」
「いや、でもコレ、棚の鍵穴に合うのか?」
試しに食器棚の鍵穴にさしてみると、なんとカギはぴったりと合って開くことができた。
俺とプリシラはいっしょに驚いた。
「助かりましたー。カギが見つからなかったら奥さまに怒られるところでした」
にこにこと笑うプリシラ。
「これもアッシュさまのおかげです」
それから俺の手を握る。
彼女のぬくもりが伝わってくる。
「アッシュさまは将来きっと立派なランフォード家の跡継ぎになられます。アッシュさまを『ご主人さま』と呼べる日を楽しみにしてますねっ」
跡継ぎ、か……。
妾の子の四男で、しかもまともに召喚術が使えない俺が跡継ぎになんてなれるわけないんだがな……。
むしろ、いつ追い出されてもおかしくない。
俺はあいまいに苦笑するしかなかった。
カギ、か……。
俺は自分の部屋へ帰ろうとしたが、あることを思いついて屋敷の地下室に下りていた。
ランフォード家の初代当主が家宝を残したとされる、封印されし地下室だ。
地下室に入れるのは入り口までで、入口の扉は堅く閉ざされている。
扉にはカギがかけられており、誰も開けることができない。
カギはランフォード家ができてから長い月日が経つ間に紛失したらしい。
おまけに扉には強力な魔法で封印がほどこされており、力ずくで開けるのもかなわないときている。
だから誰も――父上すら、初代当主の遺した家宝を見たことがないのである。
俺なら開けられるだろうか。
もちろん、本気で扉を開けられるだなんて思っていなかった。
ほんのちょっとした興味本位だった。
「来たれ!」
俺は頭に思い描いたものを召喚する。
空中に魔法円が浮かび上がり、そこからカギが出現して俺の手のひらの上に落ちた。
なんの変哲もない、ただのカギ。
バカげてるな。
自嘲しながら俺は封印されし扉の鍵穴にカギをさした。
そして手を時計回しにひねると――カギはするりと回った。