29-2
マリアが石ころと化した水晶の破片を拾う。
すると破片は砕けて砂となり、彼女の手からこぼれ落ちた。
「人間は自らの努力で進歩しなくてはならんのじゃ。これは、人類の努力を否定する代物なのじゃよ」
押し黙っている俺たちにスセリはそう言った。
古代文明を滅亡に追いやった根源。
この時代まで残っていたそれは、俺たちの手によって葬られたのであった。
そういうわけで、今回の遺跡調査は終わったのであった。
自らの努力で進歩、か。
古代人と水晶の関係を聞かされて、俺は自分と『オーレオール』の関係に似ていると思った。
魔書『オーレオール』は、『出来損ない』だった俺にとてつもない力を授けた。
俺も一歩間違えれば『オーレオール』の力に溺れて破滅してしまうのだろうか……。
だとしたら俺もいつか、この魔書を……。
「アッシュさま。どうされたのですか?」
塔を下りて外に出たところで、プリシラが俺の顔を覗き込んできた。
「とても真剣なお顔をしていますが……」
「え……。ああ。ちょっと考えごとだよ」
心配するプリシラに俺は笑ってみせた。
「よもやアッシュよ。水晶を壊したのをもったいないと思っているのではあるまいな」
スセリの言葉を俺は「違うさ」と否定する。
「俺はスセリの言うとおりだと思う。力をめぐって戦いが起きるなら、いっそ壊したほうがいい」
「研究者だった僕としては、まだ未練があるよ」
オーギュストさんが苦笑いした。
「過ぎたる力は災厄をもたらす。それは古代人が証明したのじゃ」
過ぎたる力……。
災いをもたらす……。
俺は自分の手にある万能の魔書を見つめた。
ケルタスの街に戻ってきた俺たちは、ネネのいる病院へと足を運んだ。
「アッシュ!」
病室に入るなり、ネネが俺の名を呼んだ。
彼女は目を覚ましており、ベッドの上で上体を起こしていた。
ベッドから飛び降りるネネ。
「お、おい。ベッドから出ていいのか?」
「アタシならもうぜんぜん平気だ。医者は安静にしてろって言ったけどな」
ネネのそばには二人の妹たちがいた。
「アタシはあのとき、機械人形の攻撃でやられた。致命傷だって自分でもわかった。でも、こうして生きてる。アッシュが助けてくれたのか?」
「まあな」
「そうか……」
ネネが俺の返事を聞いてうつむく。
表情は暗い。
「アッシュには助けられてばかりだな」
「俺たちは仲間だ。助け合うのは当然だろ」
「けど、アタシは自分の実力を過信していた。お前たちとは違う。自分一人でもどうにかなる、って心のどこかで思ってた。そのせいでアタシは死にかけたんだ。とんだうぬぼれだった」