29-1
俺たちは耳を疑った。
水晶を破壊するだって……!?
平然とそう言ったスセリに対して、俺たちは動揺した。
「おぬしら、ワシの後ろに下がるのじゃ。ワシの魔法に巻き込まれたくなければな」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいスセリさん!」
オーギュストさんが水晶をかばうようにスセリの前に立ちはだかる。
「この水晶を壊すつもりなのですか!?」
「そうなのじゃ」
「これは貴重な発見です。王都の研究者たちを呼ぶべきです。それをどうして破壊するのですか」
「オーギュストよ。おぬしは知らんのか」
「な、なにをです……?」
「古代文明が滅んだ原因を」
いきなり古代文明の話になり、困惑する俺たち。
その理由はすぐに判明した。
「古代文明は、この水晶をめぐる戦争で滅んだのじゃ」
古代文明は、科学は極めて発達していたが、魔法はまだおとぎ話の空想に過ぎなかった。
そんな中、この魔力を秘めた水晶が発見され、魔法が現実の存在だと判明した。
魔法の力は人類の文明を飛躍的に発展させる力を秘めていた。
国同士が水晶をめぐって争いを繰り広げるのは遅くなかった。
強大なる科学の兵器を用いた争いは、またたく間に人類を、大地を滅ぼすに至った。
未曽有の戦いの末、大地は枯れ果て、生き残った人間はわずかになり、皮肉にも文明は崩壊し、何世紀も後退した。
その生き残った人間の子孫が俺たち新たな人類だという。
科学は廃れ、魔法の知識のみが残されたのだ。
――そう、スセリは語った。
「人類が、この水晶をめぐって戦争をした……」
「この水晶は滅びを招く存在。旧人類を滅亡に導いた原因なのじゃ。これは人間の手に余る。破壊すべきなのじゃよ。……しかし、まさか現存していたとはの」
「本当にこれが、スセリの言う水晶なのか?」
「これほどの魔力じゃ。間違いあるまい」
水晶は語らず、静かに浮遊しながらゆっくりと回転している。
「オーギュストよ。おぬしの考えているとおり、この水晶に秘められた魔力は『オーレオール』の比ではない。王国の研究者たちによって研究されれば、魔法の技術を何世代も先へと進歩させられるじゃろう。しかし、急速な進歩は破滅をもたらすのじゃ」
「……」
「これは『なかったこと』にすべきなのじゃ」
オーギュストさんは目を閉じて考え込む。
長い沈黙。
……そして、彼はスセリの前からどいた。
俺たちもスセリの後ろに下がった。
スセリが水晶に手をかざす。
かざした手に魔力が集中する。
「いでよ、漆黒の刃!」
彼女の手から黒い刃が飛び出すと、一直線に走って水晶に直撃した。
水晶に亀裂が走る。
かすかに明滅していた光が消えると、浮遊していた力を失って床に落ちた。
その衝撃で粉々に砕け散った。ガラスの割れる音が広い空間に響き渡った。
霧のように吹きだした青白い光――可視化した魔力が大気中に溶けていく。
床に散らばった水晶は魔力を失って灰色の石と化した。