28-7
最上階へと到着した。
「おっきな水晶ですっ」
「こんな巨大な水晶、ワシも初めて見たのじゃ」
「これはすごい……」
最上階の広い空間の中央に、六角形の巨大な水晶が浮遊しながらゆっくりと回転していた。
俺たちは水晶の前まで近づく。
水晶は中心に光を蓄えており、かすかに明滅している。
「この水晶、とてつもない魔力を秘めておるのじゃ」
「わたくしも感じますわ。肌がぴりぴりとしびれますわ」
俺もさっきから指先がぞわぞわしていた。
オーギュストさんが慎重に水晶に触れる。
「僕も魔術師なら魔力を感じられたのだろうか……」
それから彼は手帳を取り出し、ペンで文字を書き込む。
「古代人は魔法を操る技術を持っていなかったというのが通説だが、どうやらそれが覆りそうだ」
オーギュストさんは興奮したようすだった。
「この塔は都市に魔力を供給するための施設だったのだろうか。だとすると、もう片方の塔にもかつては水晶があったのかもしれない」
「魔術は使えなくとも、魔力については存在を知っておったのじゃろう。その痕跡がほとんどなかったのは、一部の権力者たちが魔力の存在を秘匿しておったからかもしれんの」
「機械と魔力、その二つによって古代人は繁栄していたのですね!」
それからオーギュストさんは水晶と、その周辺にある機械を入念に調査した。ときおりスセリが彼に助言をしていた。
熱心に調査をする二人。
俺とプリシラとマリアは手伝えることがなかったので、時間を持て余していた。
俺はガラスの壁に手をつき、眼下に広がる古代の都市を眺めていた。
自然の緑に侵食された灰色の街。
四角い建物がそこら中に建っている。
華やかな大都市ケルタスとは対照的で、かつて古代人が住んでいた街は色彩に欠け、さみしげだった。
こんな街に住みたいかと問われれば、俺は首を横に振る。
「とても高いですわね」
俺の隣にマリアが立った。
「わたくしたちより高度な文明を持ちながら、どうして古代人は滅んでしまったのかしら」
「戦争とかじゃないか?」
「戦争なら、勝った国が今も残っているとは思いませんこと?」
科学で栄えた古代文明はことごとく滅び、今は俺たち新たな人類が暮らしている。
いにしえの人類はどこへ行ってしまったのだろう。
「すまない。退屈させてしまったね」
オーギュストさんが俺たちのところへやってきた。
「もう調査は終わったんですか?」
「ああ。とはいえ、収穫はあまりなかったんだが。せめて持ち帰ることができたら……」
しかし、持ち帰ろうにも、こんな巨大な物体をどうやって持ち運べばいいのか見当もつかない。かなり重そうだし、よしんば持ち上げられたとしても、地上へと続く道は人が通れる程度の階段しかない。
「持ち帰る必要はないのじゃ」
スセリがそう言う。
そしてこう続けた。
「この水晶は、この場で破壊するのじゃからな」
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