28-5
病室の扉が勢いよく開かれる。
そしてそこから二人の女の子が現れ、ベッドで眠るネネに駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん!」
「お姉ちゃん!」
二人の幼い女の子は泣きながらネネを揺する。
この子たちがネネの言っていた妹か。
「だいじょうぶだよ。お姉ちゃんは寝ているだけだから」
オーギュストさんは妹たちの肩にやさしく触れてそう言った。
「ほんと?」
「ほんとに寝てるだけ? オーギュストさん」
「ああ。彼がネネお姉ちゃんを助けてくれたんだ」
妹二人が俺を見つめてくる。
「お兄ちゃん、誰?」
「お兄ちゃん、お医者さんなの?」
「俺もお姉ちゃんと同じ冒険者さ」
「冒険者のお兄ちゃん。お姉ちゃんを助けてくれてありがとうっ」
「ありがとーっ」
妹たちはぺこりとおじぎした。
そのしぐさがかわいらしくて、俺は思わず笑みをこぼした。
オーギュストさんも柔和な表情をしていた。
「お姉ちゃん、いつになったら起きるの?」
「それはお兄ちゃんにもちょっとわからないな。お姉ちゃん、とっても疲れているからな」
「アタシ、お姉ちゃんが起きるまでここにいる!」
「アタシも!」
「なら、おじさんと一緒にお姉ちゃんが起きるのを待とう」
「うんっ」
「わかったっ」
妹たちがにっこり笑顔になった。
「いいんですか? オーギュストさん。冒険者ギルドの仕事は……」
「これもギルドの仕事のうちさ」
オーギュストさんは本当にいい人だな。
冒険者を、ネネを心から気にかけてくれている。
俺はネネと彼女の妹たちをオーギュストさんに任せ、病院を後にした。
そして『夏のクジラ亭』へと帰ってきた。
プリシラとマリア、スセリが俺を出迎える。
「アッシュ。ネネの容態はどうでしたの?」
「なんともないらしい」
「よかったですー」
「安心しましたわ」
マリアとプリシラは互いに顔を見合わせてほっと息をついた。
「あのときは本当にびっくりしましたのよ。約束の時刻になって塔を下りると、全身血まみれのアッシュとネネがいたのですから」
「わたし、気絶しちゃいそうでした」
「心配かけてすまなかった」
「それよりアッシュよ。『オーレオール』をワシに見せるのじゃ」
俺は部屋から『オーレオール』を持ってきてスセリに渡す。
スセリは『オーレオール』を手にして目を閉じる。
それからしばらくして目を開けると、俺に『オーレオール』を返した。
スセリは難しい顔をしている。
「やはり、魔力が完全に尽きておるな」
「治癒魔法を使ったからか?」
「うむ。あれほどの重傷を治したのじゃ。『オーレオール』の魔力はからっぽなのじゃ」
「スセリさま。その本はどうすれば元通りになりますの?」
「時間が経てば自然と魔力が溜まっていくのじゃ。しかし、からっぽの状態から元に戻すには相当時間がかかるじゃろうな」
以前、スセリが『オーレオール』を使って俺の傷を手当てしてくれたときも、魔力を取り戻すのにだいぶ時間がかかった。
今回もそれくらい……いや、それ以上時間がかかりそうだ。
「では、その本が元通りになるまで、しばらくアッシュはお荷物さんというわけですわね」
「荷物言うな」
まあ、マリアの言うとおりなんだが……。