28-4
「光よ!」
俺はすかさず魔法を唱える。
かざした手から光の弾が高速で射出され、機械人形の頭部に命中した。
しかし、俺の魔法は金属の装甲をはがすだけで、機能停止にまでは至らせなかった。
機械人形の内部が露出した顔が俺のほうを向く。
ネネを串刺しにしていた左手の刃を収納する。
支えを失ったネネが倒れる。
彼女の倒れた場所を中心に、赤黒い血だまりがみるみる広がっていった。
右手を失った機械人形が不安定な動きで、俺めがけて走ってくる。
左手の刃を再び出す。
そしてそれを俺に突き出した。
「障壁よ!」
目の前にせり出した魔法の障壁が刃を受け止める。
魔法障壁が砕け散る。
反動で姿勢を崩す機械人形。
俺は機械人形の胴体に手を当てて、叫んだ。
「爆ぜろ!」
俺の手から爆発が起き、吹き飛ばされる機械人形。
機械人形は壁まで吹っ飛ばされ、ガラスを突き破って塔の下へと落下した。
「ネネ!」
俺はすぐさまネネのもとへと駆けつけた。
血だまりの上でひざをつき、血まみれの彼女を抱き上げる。
見開いたままの彼女の目は虚ろ。
貫かれた胸からは今もなお、どくどくと血がこぼれ出てきている。
「頼む『オーレオール』。ネネを治してくれ……」
俺は祈るようにそう言った。
祈りに呼応して、『オーレオール』から膨大な量の魔力が身体に流れ込んでくる。
俺はありったけの魔力を使い、癒しの魔法を唱えた。
まばゆい光が、俺の腕の中でぐったりとするネネを包み込む。
出血が治まる。
機械人形の刃によって穿たれていた傷口がみるみるうちに塞がれていく。
青ざめていた彼女の顔が本来の色を取り戻す。
虚ろだった瞳にも光が宿った。
「アッシュ……」
そう一言だけつぶやいて、ネネは目を閉じた。
俺の腕の中でネネは眠りについた。
……安らかな寝息を立てて。
それから俺はネネを背負って塔を下り、スセリとプリシラとマリアが塔から戻ってくるのを待った。
彼女たちと合流してからケルタスに帰り、ネネを病院に連れていった。
「まったく、むちゃをする子だ」
そう口ずさんだのは冒険者ギルドの職員、オーギュストさん。
俺とオーギュストさんはネネが眠るベッドの前に立っている。
「いつかこうなるとは思っていたんだ」
病院でネネを診てもらったところ、幸いにも命に別状はなかった。
治癒魔法が間に合ったからだ。
致死量の出血をしていたにもかかわらず、『稀代の魔術師』の魔書は瞬時にして致命傷を完治させたのであった。
まさに奇跡。
「アッシュくん。キミには感謝してもしきれない」
彼の言う『いつか』が俺のいるときで本当によかった。
俺と出会わなかったら、ネネはどうなっていただろう。
想像するだけで背筋が凍る。