28-2
それにしても『かわいそう』か。
戦うために作られた存在――機械人形。
彼らは自分の存在についてどう思っているのだろうか。
思うことすら許されていないのか。
主である旧人類が滅んでからも生き続け、朽ち果てた街をさまよい続ける彼らを本当に壊してしまってもよいのだろうか。
俺は機械人形に一抹の同情を抱いてしまった。
あまり考えすぎると、いざ戦いになったときに破壊するのをためらってしまいそうだったから、それ以上深く考えるのをやめた。
その場を後にし、俺とネネは探索に戻った。
それから塔を上りつづけたが、目立った収穫はなかった。
機械人形との戦闘は幾度かあったが、俺の魔法とネネのロッドによって容易く退けられた。
通路を進んでいると、天井が崩落して道をふさいでいる場所につきあたった。
いったん引き返して別の道をさがすべきか。
……いや、上のほうに通り抜けられる隙間がある。
俺は崩落したがれきを登って、ネネに手を差し伸べた。
「これくらい自分で登れる」
ネネは差し伸べた俺の手を無視し、軽々とがれきを登った。
がれきと天井の隙間を通って、通路の向こう側に降りる。
服についた汚れを払う。
ネネに目をやると、彼女もがれきを這ったせいで体中だいぶ汚れていた。
彼女はそういうのは気にしないらしく、汚れても平然としている。
「ネネ、動くなよ」
だから俺はハンカチでネネの頬についていた汚れを拭ってやった。
やわらかいほっぺただ。
ごしごしとこすり、灰色の汚れを取る。
「なっ……!?」
そうされている間、ネネは目をまんまるにして硬直していた。
「もう動いてもいいぞ。汚れは取れたから」
「……お、お前はなー!」
「ネネ!?」
ネネはロッドをギリギリと握りしめて俺をにらみつけていた。
「な、なにか気にさわることしたか俺!?」
「ぶっ飛ばされたいのか!」
どうやらネネを怒らせてしまったらしい。
……確かに、いきなり顔をさわったのは失礼だったな。
ネネはそんなの気にする性格ではなさそうだったから意外だった。
ネネはため息をつき、ロッドを下ろす。
「アッシュといると調子を狂わされる。お前みたいなヤツと会ったのは初めてだ」
自分の胸に手を当てるネネ。
「お前といると、たまに変な感じになる」
「変な気持ち?」
「胸がすごくドキドキするんだ」
「緊張してるんじゃないか。他の冒険者と組むことは今までなかったんだろ?」
「うーん、緊張とも違うような気がする……」
「探索に支障が出るなら、今日はもう塔を下りるか?」
「いや、だいじょうぶだ。た、ただ……」
「ただ?」
「き、気安くさわるなっ」
ネネはやけ気味にそう叫んだ。