27-5
蜘蛛型の機械人形が尖った足で絶え間なく攻撃してくる。
俺の前に出現した魔法障壁に次々と亀裂が入る。
そしてついに限界に達し、障壁が砕け散った。
「爆ぜろ!」
障壁がなくなった瞬間、俺は魔法を唱えた。
閃光と共に小規模の爆発が起こり、蜘蛛型の機械人形を攻撃した。
吹っ飛んだ機械人形。
ひっくり返って床に落ちる。
「てやーっ!」
無防備になったところにネネが接近し、機械人形の腹をロッドで叩いた。
ぐしゃり。
機械人形の腹がつぶれる。
それは致命の一撃となり、蜘蛛型の機械人形はひっくり返ったまま機能停止した。
部屋に静寂が戻った。
ネネは「ふーっ」と息を吐いて身体から力を抜いた。
「アタシとしたことが、うかつだった」
「まさかもう一体、天井に張り付いていたなんてな」
「……アッシュ」
ネネは目をそらしながら俺を呼ぶ。
なにか言いたそうに口をもごもごさせている。
「……がと」
「え?」
「『ありがと』って言ったんだ!」
ネネは投げやり気味に叫んだ。
彼女は顔が真っ赤になっていた。
俺は目をぱちぱちさせながら「あ、ああ……」とうなずいた。
「とっさに突き飛ばしてしまったけど、ケガとかしなかったか?」
と言ったところで気づいた。
ネネの膝に擦り傷があった。
「転んだときに擦りむいたのか」
「こんな傷、大したことない。とっとと塔を下りるぞ」
「そういうわけにはいかないさ」
俺は『オーレオール』の魔力を借り、治癒の魔法を唱えた。
やわらかい光がネネを包む。
彼女の膝の擦り傷があっという間に治った。
「大したことないって言っただろ」
素直じゃない言葉をネネからもらった。
「……お前、やさしいな」
そっぽを向いているネネがまた頬を紅潮させていた。
「アタシは今まで他人を信じたことなかったけど、アッシュ、お前だけは別だ。お前にだけは背中を預けられる気になれる」
「光栄だな」
戦いを終えた俺たちは、もと来た道を引き返す。
地図を頼りに道を戻り、下の階へと降りていく。
あと少しで外に出られる――と思っていたそのとき、ネネの表情が急に険しくなった。
「階段の下から音がする!」
ネネは俺を促して物陰に隠れようとした。
しかし、その必要はなかった。
階下へと続く階段を上ってきたのは、プリシラたちだった。
「プリシラ、マリア、スセリ」
「アッシュさま、ご無事でしたか」
「日が暮れてきたので迎えに来たのですわよ」
プリシラとマリアは無事な俺たちを見て安堵の息をついた。
「魔物や機械人形との戦闘はあったかの?」
そうスセリが尋ねてくる。
「ああ。『オーレオール』の力、使わせてもらったぞ」
「好きにするがよい。それはもはやおぬしの所有物じゃからな。使いこなせるようになるのじゃぞ。……ワシの野望のためにも」
スセリの野望。
それについてはあえて尋ねなかった。
どうせ教えてはくれないだろうから。