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ネネの言うとおり、プリシラは半獣としてはかなり幸運な境遇だった。他の人間と混じってメイドとして働いていたなんて。
奴隷として買われた半獣の多くは過酷な肉体労働をさせられたり、闘技場で見世物として戦わされたりする。
道具としてボロボロになるまで働かされ、使い物にならなくなると打ち捨てられる。
仮に奴隷の立場でなくても、半獣は基本的にどの領地でも市民権を得られず、迫害される身にあり、過酷な生活を余儀なくされる。
「人間より強いのに、人間に差別されるなんて……。気に入らないな」
ネネは半獣が受ける理不尽さに憤りをあらわにしていた。
確かに半獣は身体能力が優れている。
しかし、彼らは人間より圧倒的に数が少ない。
少数であることは、人間の世界ではなによりの『弱さ』なのだ。
ネネもまた、少数に属する人間である。
華やかな大都市ケルタスの陰で暮らす、見捨てられた者たちの一人。
だから半獣の境遇に納得がいかないのだろう。
彼らが人間よりも強いから、なおさら。
それから俺とネネは遺跡の探索に本腰を入れた。
直角に折れ曲がりながら続く通路と、ときおり現れる正方形の開けた空間。朽ち果てた機械。そして上へと続く階段。
そればかりが延々と続いた。
先頭を俺にまかせ、ネネは黙々と地図を描いていった。
途中、彼女に地図を見せてもらうと、かなり丁寧に地図が描かれていた。プリシラが描く地図よりもずっと見やすく、わかりやすい。
おおざっぱ性格だろうという印象をネネに抱いていたから意外だった。
「地図の出来も報酬に影響するからな」
ふてくされ気味にネネはそう言った。
どうやらまた考えを読まれてしまったらしい。
階段を上がり、上の階へと進む。
地図によると今は七階だが、どの階も似たような構造が延々と続いていた。
魔物や機械人形とは遭遇していないが、金目になるような物も見つかっていない。
ネネが足元に転がっている小さな機械を拾う。
薄い正方形の物体で、中央にガラスがはめられている。
ネネがそれをいろいろいじっていると、フタらしきものが開いた。
「古代人はこれでなにしてたんだろうな」
古代人の遺跡には、使い道が不明な機械が多くある。
形や大きさはさまざま。
残念ながらそれらは冒険者ギルドに持ち帰ってもほぼ無価値として扱われる。
「でもこれ、キレイだよな」
フタが開いて中から現れたのは中央に穴の空いた円盤だった。
円盤は表面が七色に光っている。
キレイだが、やはりこれも価値は無い。古代人の遺跡でよく見つかるもので、希少性が皆無だからだ。
「冒険者になりたてだったころを思い出すな。初めての遺跡探索でコレを見つけたとき、お宝と巡り合えたと勘違いして、山ほど拾ってギルドに持ち帰ったんだ。それで、他の冒険者たちに笑われた」
「新米冒険者によるあることらしいな」
俺もスセリがいなかったら、プリシラと一緒に大喜びでそれを拾い集めただろう。
「で、笑ったヤツ全員ぶっ飛ばした」
ネネらしいな……。