27-2
ネネは両親と死別しているのか……。
俺のほうこそ、うかつなことを尋ねてしまった。彼女が貧困層居住区の出身であると知っていながら。
「アタシのこと、同情なんてするなよな」
俺の表情で察したらしく、ネネがそう言った。
「アタシはアタシなりに生きている。冒険者であることを誇りに思ってるし、自分の実力にも自信がある。大人にも負けたりしない」
「強いんだな、ネネは」
「にひひっ。まあな」
ネネは白い歯を見せて笑った。
どうやら彼女にとって『強い』は最高の褒め言葉らしい。
「アッシュもなかなか強いじゃないか。魔法を使ったとはいえ、アタシに勝ったんだからな。お前たちが遺跡探索の依頼を受けるって耳にしたとき、こんな弱そうな連中と組むのはゴメンだぞ、って思ってたんだ」
だから彼女は実力を確かめてきた。
しごく単純かつ、わかりやすい方法で。
そして俺は見事、彼女のお眼鏡にかなった。
「アタシの棒さばきを受けきれる大人は今まで一人もいなかった。やっぱり貴族だから、先生がいて戦いの修行とか訓練とかしてたのか?」
「特にそういうのはしてないな」
正直なところ俺自身、ここまで自分が戦えるなんて思ってもみなかった。
スセリから託された『オーレオール』があるから魔法が使えるのは当然だが、それを使って敵と戦闘ができるとは……。屋敷の外に出るまではただの貴族の息子に過ぎなかったのに。
もしかすると、俺には戦いの才能があるのかもしれない。
うぬぼれでは決してない。
ただのうぬぼれなら、これまでの戦いで生き延びてこられなかった。
「ならさ、今度からアタシと戦いの訓練をしないか? カカシ相手の訓練はもう飽きてたところだったんだ」
「ああ。いいぞ」
「よしっ、決まりだなっ」
まるでプレゼントをもらった子供みたいに喜ぶネネ。
「アッシュ。お前といっしょなら、アタシはもっともっと強くなれる」
ネネは『強さ』によほどのこだわりがあるようだった。
おそらく、そのこだわりがなければ生きてこれなかったのだろう。
「そういえば、プリシラっていうヤツだっけ? あいつはどうして頭に犬みたいな耳を生やしてるんだ?」
「ああ、プリシラは半獣だからな」
「ハンジュー? 魔物とは違うのか?」
ネネは半獣を知らないのか。
俺は彼女に半獣についてかいつまんで説明した。
獣の血が流れる人間で、獣の耳やしっぽなど、動物の特徴が身体にあること。身体能力が極めて高いこと。
そして差別されている立場であることを。
「奴隷……。プリシラも奴隷なのか?」
「元な。俺はプリシラを奴隷とは思っていない。かけがえのない仲間だ」
「そうか……。プリシラはいいヤツに巡り合えたんだな」