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俺はそのことをネネに話した。
するとネネは意外なところで驚いた。
「家庭教師って、お前もしかして貴族なのか?」
「いろいろあって、今は外の世界で冒険者をしているんだ」
「『いろいろ』か」
ワケありなのを察したネネはその『いろいろ』の部分を尋ねてはこなかった。
「貴族の優雅な暮らしをやめて、危険と隣り合わせの冒険者になるってことは、やっぱりそれなりの事情があったんだな。昔の話はあまり話したくはないか?」
「別に、そこまで気をつかってくれなくてもいいぞ。ネネが聞きたいならいくらでも話すさ」
「そうか……」
考え込むネネ。
それからこう質問してきた。
「貴族って、やっぱり毎日おいしいもの食べて、不自由なく楽しく暮らしているのか」
「うーん、確かに平民と比べたらいい暮らしをしているのは確かだけど、その分大きな責任も負っているぞ」
作物の実り具合など、領民の生活を常に気にかけなればならず、戦争になれば兵を連れて前線に立たなくてはならない。そういった責任を放棄して自由気ままに暮らしている貴族もいるだろうが、無能な領主として領民からそっぽを向かれてしまうだろう。
「責任……。貴族も楽なわけじゃないんだな」
「ケルタスの領主だって、あんな大きな街を統治しなくちゃいけないんだからな」
「アタシは領主は嫌いだ。会ったことないけどな」
そうか。ネネは東区の貧困層居住区で暮らしていたから、ケルタスを統治している領主をよくは思っていないんだな。
「ネネはどんな暮らしをしてたんだ?」
「前にも言ったけど、アタシは小さなころから大人の仕事を手伝って生きてきた。生活は苦しかった。一口も食べることができない日もあった」
ネネには妹が二人いた。
妹たちを養うため、ネネは毎日大人から仕事をもらってお金を稼いでいた。
そして冒険者登録が可能な年齢になると、ギルドに自分の名を登録して冒険者になった。
ケルタスの貧困層で生きていくため、冒険者になる子供は少なくないらしい。
……そして、遺跡の探索や魔物討伐で命を落とす子供もやはりいるという。
大都市ケルタスはすべてが華やかとは限らない。
ネネたちのような、光の対となる影の部分もあるのであった。
「そういえばネネ。ネネには姉はいないのか?」
「姉? いないけど、それがどうした?」
俺はネネに錬金術師ノノさんのことを教えた。
「アタシと同じ、真っ赤な髪の美女……」
「名前も似ているから、もしかして血縁者なのかと思ったんだが」
「……心当たりはないな。っていうか、アタシ、自分のことはよく知らないからな。両親はアタシが物心つく前に死んでるし。まあ、赤い髪の人間なんていくらでもいるから他人だろ」