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ヴィットリオさんが屋根を修理してくれたおかげで雨漏りも無くなった。
そしてその夜のうちに雨は止み、翌朝になるとよく晴れた空に朝日が昇りつつあるのを見ることができた。
庭に出た俺は水たまりを避けながら井戸まで行き、顔を洗う。
花壇に目をやる。
花壇の花たちはどうにか雨をしのぎきって、色とりどり咲き誇っていた。
花に溜まった雨のしずくが朝日に輝き、俺はその美しさに見とれてしまった。
それから俺とプリシラ、スセリ、マリアは冒険の準備をし、『夏のクジラ亭』を出た。
ヴィットリオさんが「昨日の礼だ」と弁当を持たせてくれた。
ヴィットリオさんはなんだかんだで思いやりのある人だから、昨日の件がなくても作ってくれたろうけど。
雨が降った翌日のケルタスは、いつもより涼しかった。
それに、雨のにおいがする。
道のそこかしこに大小の水たまりができていて、人々はそれを避けながら歩いている。
息がつまるほどの大勢の人々が行き交う中で、水たまりのところだけがぽっかり穴が開いたようになっていた。
街の門をくぐり、郊外に出る。
冒険者ギルドから渡された地図を頼りに、遺跡があるという場所へと向かった。
「結構遠いですわね」
「魔物も出没するらしい。気をつけてくれ」
街の姿がかすむくらいの場所まで行くと、地面が茶色い土から灰色の固いものに変わった。
「なんですの、これ。石ですの?」
「なんでも、古代人が舗装した道らしい」
マリアは靴底で灰色の地面を叩いたり、屈んで手で触れたりしていた。
プリシラも興味津々で、灰色の地面に引かれた白い線をさわっている。
「スセリさま。この白い線はなんですか?」
「古代人はその線に沿って馬車を走らせていたらしいのじゃ。馬車というか、正確には馬を必要としない『自動車』という乗り物じゃな」
スセリがそばにあった古代人の遺物を叩く。
朽ち果てた鉄のかたまり。四方にはガラスの窓があり、下部には車輪がついていたらしい、小さなくぼみが四つある。
これが自動車だとスセリは言った。
自動車はそこかしこに打ち捨てられ、いずれも錆びて自然の草花に侵食されていた。
「それにしても、古代人はこんな街に住んでいましたのね」
「すごいですよね。あんな背の高い建物に住んでいただなんて」
俺たちの目の前には遺跡群があった。
灰色の大地の上に、天高く背を伸ばす灰色の建物が無数に建っている。
灰色の建物は自動車と同じく、長き星霜の果てに朽ちて緑の自然に吞まれていた。
建物の陰から動く物体が出現した。
四足歩行の機械人形『ガードマシン』だ。
俺たちは自動車の後ろに隠れて気配を殺し、ガードマシンがいなくなるまでその場でやり過ごした。