25-7
「父から教えてもらう約束じゃったな」
「ああ」
――父上。次に帰ってきたときに、魔法を指南してください。
――そうしよう。
父上と交わした約束。
それは、枯れた大地の小さな芽吹き。
親子として、家族として共に歩むための、ほんのわずかな一歩だった。
「それとノノから勉強してもよいじゃろうな」
錬金術師のノノさん。
村の守護者となった竜アスカノフとは仲良く暮らしているだろうか。
錬金術の変な薬の実験台にされていないか少し心配だ。
あと、家の中をちゃんと掃除しているのかも。
「ノノさんか……」
「なんじゃ。ノノじゃ不満なのか。あやつは少々変わった人間じゃが、魔法はしっかり使えるようじゃぞ」
「いや、そうじゃないんだ」
ノノさんの姿を頭に思い描いたとき、ふと思ったのだ。
先日、冒険者ギルドで出会った冒険者の少女ネネ。
ノノさんとネネ、なんとなく似ていると。
名前もそうだが、燃えるような紅い髪が二人の輪郭を重ねた。
あんなきれいな髪を持っている者はそうそういない。
俺はスセリにそのことについて言ってみた。
スセリはアゴに手を添えて考え込む。
「ノノとネネか……。似ておると言われれば似ておるような気がするのじゃ」
「身内だったりするんだろうか」
「さすがにそこまではわからんのじゃ。ただ、髪の色が似ているだけなら他人の可能性のほうが高いとワシは思うのじゃ」
明日、遺跡を探索するときにネネに尋ねてみよう。ノノさんのことを知っているか。
ネネは貧困層居住区の出身で、貧しい暮らしをしていと言っていた。
ノノさんが身内なら、貧困の問題がなんとなるかもしれない。
……余計なお世話かもしれないが。
コンコンコンッ。
部屋の扉が素早くノックされる。
「アッシュ、大変ですわよ!」
マリアの声が扉越しに聞こえてきた。
「どうした!?」
俺は慌てて扉を開けると、血相を変えたマリアがそこに立っていた。
「とにかく来てくださいまし」
マリアは事情も説明しないまま俺の手をつかみ、廊下に引っ張り出してきた。
マリアに手を引っ張られるまま廊下を歩く。
すると、廊下の途中にプリシラとクラリッサさんがいた。
「あっ、アッシュさまっ」
「アッシュくんにスセリちゃん」
二人が俺たちに気付く。
「二人を連れてきましたわよ」
「なんか大変なことが起きたらしいが、どうしたんだ?」
と言ったところで、その『大変なこと』がなんなのかわかった。
プリシラとクラリッサさんの前には料理で使う大きな鍋が床に置いてあった。
鍋には半分くらい、水がたまっている。
ぽちゃん、ぽちゃん、ぽちゃん……。
そこに、しずくが落ちてきていた。
天井を見上げる。
白い天井にはシミができていて、シミの中心から水がしたたり落ちてきていた。
雨漏りだった。
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