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それから俺たちは道具屋へ行き、遺跡探索をするための道具を調達した。
今回探索するのは未調査の遺跡。
つまり、俺たちがはじめて探索をする冒険者になる。
これまでは事前に冒険者ギルドから遺跡の地図を渡されていたが、今回は自力で地図を描かなければならない。
万が一、迷子になってしまったらおしまいだ。
だが、その分、報酬は破格。
遺跡の地図を描けば描くほど報酬も増えていく。
「地図描きはこのプリシラにおまかせくださいっ」
地図描きの役目はプリシラだった。
プリシラはいつかこういうときが来たときのために、他の先輩冒険者から地図の描きかたを習っていたのだ。
本当に努力家だ。プリシラは。
「プリシラ。頼みましたわよ」
「はいっ。いっしょうけんめいがんばりますっ」
そして翌日。
その日は朝から雨が降っていた。
風も強い。
雨粒が窓をしきりに叩いている。
俺たちは『夏のクジラ亭』の自分たちの部屋にこもっていた。
遺跡探索は明日だ。
それまでに晴れればいいのだが。
俺はベッドに横になり、魔書『オーレオール』を開いた。
しおりを挟んだところから読んでいく。
『オーレオール』にはスセリによって数々の魔法が記されている。
大半が破壊的で、冒涜的で、使うのをためらうものばかり。
スセリの言うとおり、この魔書を読破したころには、国の一つや二つ、軽々支配できるようになるだろうな。
むろん、俺はそんな野望は抱いていないが。
スセリはなにを思って魔法を作りだしていたのだろう。
まさか、世界征服か。
ありえないことではない。
――ワシには野望がある。凡百の徒には成しえぬ野望が。
以前、スセリはそう言っていた。
魂を『オーレオール』に縛られていたころは、スセリに自由はなかったが、セヴリーヌの魔法によって若返らせた肉体を得た今は、完全な自由を手に入れている。
つまり、スセリはいつでもその『野望』を実行することが可能ということ。
本当にスセリに肉体を与えてよかったのだろうか。
俺はときどき、そんな不安をおぼえた。
とはいえ、今のところはのじゃのじゃ言っているだけの子供なのだが。
「アッシュ。起きておるか」
ウワサをすれば。
スセリがノックもせずに俺の部屋に入ってきた。
「ノックくらいしてくれよ」
「のじゃじゃじゃじゃ。思春期の少年じゃのう」
思春期は関係ないような……。
スセリが俺が寝転がるベッドに腰かけてくる。
「ほう、『オーレオール』を読んでおったか。感心感心、なのじゃ」
「あんまり役に立ってないけどな」
「それは聞き捨てならんのじゃ」
「俺にはもっと基礎的な魔法が必要だからな」