25-5
「ぐぬぬぬ……」
くやしそうに歯ぎしりするネネ。
卑怯者。
とでも言いたそうだ。
「これで俺たちを信用してくれるか?」
そう言って俺はネネに手を差し伸べる。
ネネはそれを無視し、自力で立ち上がった。
「魔法を使われなければアタシが勝ってた」
そう強がりを言う。
確かに、魔法を使わなければ俺は負けていただろう。
「といっても、魔法込みで俺の強さだからな」
「なら、今のは互角の勝負ってことだな」
な、なんか納得いかないぞ。その理屈は……。
とはいえ、ネネはもうこれ以上戦いを続けようとはしなかったので、反論は心の中に留めておくことにした。
俺は別に、決着をつけたいとは思っていないからな。
「アッシュって言ったか。お前が熟練の冒険者と呼ばれるのにふさわしいってことは認めてやるよ」
「ネネこそ、すごい戦いぶりだったな」
「これでもまだ本気は出してないんだけどな」
にひひ、とネネは白い歯を見せて笑う。
「アッシュたちが冒険者になったのはいつごろだ? お前たちの姿をギルドで見かけたのはわりと最近な気がしたけど」
「二か月くらい前かな」
「なら、アタシのほうが先輩だ。アタシは三年前――10歳のころから冒険者をやってるからな」
話によると、ネネは東区の下流階級層の生まれだという。
貧困層の生まれである彼女は小さなころから学校にもいけず、仕事をしてお金を稼がなくてはいけなかった。
下流階級層の子供たちは皆そうで、パン屋や鍛冶屋で働くのが普通なのであった。
ネネは身軽さと度胸を武器に、冒険者になった。
子供であるせいで護衛の仕事はできなかった彼女は、魔物討伐や遺跡の探索といった危険を伴う仕事を積極的にこなしていき、実績を積んでいったのであった。
それにしても、10歳の子供をよく冒険者として認めたな。冒険者ギルドは。
もしかすると、ネネみたいな事情で、幼いころから冒険者になる貧困層の子供は他にもいるのかもしれない。
「年齢ではアッシュのほうが上だろうけど、冒険者としての経験ではアタシのほうが上だから、今度の遺跡探索はアタシにまかせてくれよな」
「ああ。頼りにしているぞ」
「探索前に準備はしっかりしておけよ。じゃあなっ」
そう言ってネネは俺たちのもとから去っていった。
「生意気な子供じゃのう」
スセリがそう言った。
「でも、戦いはすごく強かったです。目が回るほどの身のこなしでした」
「ダテに小さなころから冒険者をやってないな」
「それにしても、あんな幼いころから冒険者をやらざるを得ないなんて……」
それを言ったら、プリシラも12歳なんだがな。