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「竜を倒した功績が認められたアッシュは熟練の冒険者ですわ。この依頼も受けられますわよ」
「うーん、けどな……」
マリアとは逆に、俺はあまり乗り気ではなかった。
確かにこの依頼は報酬が破格だが、俺たちはそんな大金を今のところ必要としていない。
熟練の冒険者限定ということは、この遺跡の探索には相応の危険が伴うのだろう。
「もう少しかんたんな依頼を受けたほうがいいんじゃないか」
「アッシュ! それでも冒険者ですの?」
マリアは未知なる領域への好奇心でこの依頼を選んだのだろう。
彼女にとって外の世界は新鮮らしく、とりわけ冒険者として活動をするときは俺たち四人の中で誰よりも活き活きとしていた。
「熟練の冒険者なんてそうそういませんわ。でしたらわたくしたちでこの依頼を解決して、冒険者としての名を上げましょう」
マリアの目がきらきら輝いている。
冒険心に胸が躍っている。
「プリシラはどう思う?」
「わたしはアッシュさまに従います」
従順なプリシラはいつもそう言ってくれる。
うれしいのはうれしいのだが、こういうとき少々困る。
「スセリはどうだ?」
「ん? よいのではないか?」
スセリはかなり雑な返事だった。
「アッシュよ。ワシの作った万能の魔書をおぬしは継承したのじゃ。ひと山いくらのつまらん冒険者で人生を終わらすのは許さんのじゃ」
「目指せ、ケルタス――いえ、アークトゥルス一の冒険者、ですわっ」
「うむ。その意気じゃぞマリア」
スセリはマリアの味方らしい。
俺と目が合ったプリシラは「あはは……」と苦笑いした。
こうなってはもはやマリアを止められない。
俺たちは遺跡探索の依頼を請け負ったのであった。
冒険者ギルドの外に出る。
遺跡探索の準備をするための補助金をギルドから支給された俺たちは、道具屋へと行こうとした。
――そのときだった。
「待てよ」
街灯に背をもたれた少女に呼び止められたのは。
短く切りそろえた、燃えるような真っ赤な髪にまず目が引かれた。
そしてかなりの小柄。スセリやプリシラと同じくらいか、それ以下か。
紅蓮の髪の少女は童顔には似合わない不敵な笑みを浮かべている。
「お前たちも遺跡探索の依頼を受けたんだろ」
身なりからして、俺たちの同業者――冒険者らしい。
「今回の遺跡探索は、依頼を請け負った冒険者全員で協力することになってる。つまり、足手まといがいると邪魔なんだ」
その髪、その口調、その表情から、勝気な印象を受けた。
少女が短いロッドを取り出し、左右それぞれの手に逆手に持つ。
俺はとっさに前に出て紅蓮の髪の少女と対峙し、スセリとプリシラとマリアをかばった。